COOL Chips XVIIIの特別招待講義として、名古屋大学(名大)の加藤真平 准教授が、自動運転の現状と、加藤先生の研究室での開発状況を説明した。

自動運転についての特別招待講義を行う名古屋大学の加藤真平 准教授

この研究には、長崎大学、産業総合研究所、アイサンテクノロジー、イーソル、インクリメントP、インテル、IIC、ZMP、測位衛星技術、北陽電機などが加わっている。

車には、LIDAR、カメラ、GPSなどの各種センサが付けられている。LIDARは、原理的にはレーダーと同じであるが、電波の代わりにレーザを使う。150m位までの有効距離があり、100m先の小動物と紙袋の違いを見分けられ、2cmの精度で対象物までの距離を測定できる。

しかし、車の屋根に搭載されている360度をスキャンするVelodyneのHDL-64eは、64組のレーザ送信機と受信機が組み込まれており、名古屋大学が使っているPriusはもちろん、Googleが使っているLexusよりも高い。

また、その他にもVelodyneのHDL-32e、IBEOのLux 8L、北陽電機のUTM-30LX、SICKのLMS 551 LIDARが搭載され、あちこちの方向を見張っている。

さらに、Point Greyの 360度全周を撮影できるLadybugカメラ、高解像度のGrasshopperカメラ、JAVADのGPS受信機を登載している。

車には、LIDAR、カメラ、GPSなどの各種センサとコンピュータが搭載されている

LIDARの出力は、次の図のように点の集まりとしてレポートされるので、Point Cloudと呼ばれている。LIDARの真下になる円形の領域は測定できないので、黒く抜けている。なお、この図の各点に正確な距離情報が付いている。

LIDARの出力。Point Cloudと呼ばれる

自動運転のもう1つの立役者が高精度地図である。次の図の右下に見られるように、横断歩道や車線マークも書き込まれている。ただし、普通の地図とは違い、自動運転する道路以外は書かれていない。

このような地図はNokiaの一部門であるHEREなどが作成、提供している。

車線や横断歩道などが書き込まれた高精度地図(右)

自動運転で目的地まで行くには、スマホやタブレットで行先や道順を指定する。車に搭載されたコンピュータは各種センサの情報から車の位置と障害物の位置などを求め、目的地に到着するには、どのように運転するかという計画を立てる。そしてハンドルやアクセル、ブレーキをどう操作すれば目的地に行けるかをコンピュータで求めて、ハンドル、アクセル、ブレーキを操作するECUに指示を出す。

自動運転車は、普通の車を改造し、前述の各種センサ、信号処理用の搭載コンピュータが取り付けられている。そしてコンピュータは、次の図に黒色で書かれた箱を通してECUに信号を送って車を動かしている。元の車はCAN0ネットワークを通してECUを制御しているが、制御プロトコルなどが公開されていないので、CAN1を張って別系統の制御系を作ったという。また、CAN0に接続されたウインドウの開閉とか、エアコンの制御とか車の運動に直接関係のない部分とは切り離して、影響を与えないようにする方が良いという考慮もあるという。

上のコンピュータの部分と黒いブロックを標準のPriusに追加している。本来の制御用のCAN0には手を入れず、別系統でハンドル、アクセル、ブレーキを制御している

自動運転用のコンピュータは、LIDARやカメラ、GPSなどの信号から自車の位置や障害物などを判別し、目的地に着けるように、ハンドル、アクセル、ブレーキを操作する指令を出す。

スマホやタブレットで行先や道順を指定し、各種センサからの情報を使ってハンドルやアクセル、ブレーキをどう操作するかをコンピュータで求めて、ECUに指示を出す

自動運転を行うためには、車がどこにいるかを、地図上で正確に把握する必要がある。このために、高精度地図とLIDARから得られたPoint Cloudとのマッチングをチェックする。

LIDARからのPoint Cloudと高精度地図のマッチをチェックして、自分の位置を知る

そして、測地衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS、GPSなど)も併用する。

JAVADのGNSS受信システム

次の図は位置測定の精度を示す図で、ダイアモンドが正しい経路で、2本の線はNDT(高精度地図とのマッチング)とGNSSで測定した位置を示している。ずれは、最大でも20~30cmと高精度である。

位置精度を示す図。1目盛は、Y方向は5m、X方向は10mである

そして、車の位置と経路上の経由すべき地点(waypoint)に向かうように車を制御する。

行先(Goal)と経由地点の指示に基づいて決定した経路を走り、次の経由地点に向かうように、制御する

この記事では省略しているが、東芝のSoCのところで説明したHOGなどの方法を用いて、車や歩行者、他の障害物などを検出する。また、交通信号や交通標識などを認識して、それらに従って走る。

HEREが提供している地図は、工事中や事故で通れないというような情報も、センターに情報が届くと数分で地図情報が更新され、衛星経由で車に送られる。

高精度地図は工事中や事故などの情報が適宜更新され、衛星経由で車に送られる。このため、LIDAR情報と高精度地図の突合せができる

名古屋大学は、愛知県や警察の特別の許可を取って公道での実証実験をおこなっており、今年3月3日には、名古屋市守山区の県道15号線を時速40km程度で自動走行したというプレスリリースを発表している。なお、使用した高精度地図はアイサンテクノロジーのものとのことである。また、このプレスリリースの走行距離は1.5kmであるが、特別講義の時点では、加藤先生は、約50kmの公道走行実績があると述べていた。

名古屋大学は、この自動運転ソフトウェアをオープンソースにしていく予定で、githubで公開するという。

現在は、他車が接近してきた時や、信号での一時停止は安全のため、人間が補助している。また、公道走行といっても、左端のバス優先レーンを走るなど、まだ、人間の運転とは差がある。また、LIDARは有効なセンサであるが、価格が非常に高いなどの問題があるが、今後の研究で運転は改善されるし、LIDARの生産量が増えると価格も低下すると思われる。実用的な自動運転車の登場も、それほど先の話ではないという感じである。