現在積極的に研究されている「ステレオカメラによる3D路面検出」

車線逸脱警告システムで行われる「レーン検出」では、そのレーンに囲まれた「道路部分」の検出が行われています。しかし、この「道路がアスファルト舗装されていて、かつ平坦である」という仮定の元でのアルゴリズムで動いているシステムが主流で、高速道路や都会の道路だと非常に高い精度でレーン検出をできるのですが、これが平坦ではないあぜ道になったりすると路面の3次元状況は計測できませんし、そもそも車線レーンが無い道だと、道路とそれ以外の境界線を引く事もままなりません。

動画:ステレオカメラを用いた車両前方の3D計測データ

そこで、この問題を解決するために近年はステレオカメラのDepth Mapを用いた3D道路表面モデリングの研究が盛んです。視差を用いて最適化計算をしたDepthMapは、ノイズも多く遠方も綺麗に3次元復元するのが難しいこともあり必ずしも綺麗な3Dデータではないですが、3Dデータを直接取得できるので路面の凹凸や周辺の建物・障害物の状況を3次元形状で捉えることができます。今後はこうしたDepth Mapを元に、直接3次元データを用いて道路状況を捉える技術も実用化されていくことでしょう。

「受動的なコンピュータビジョン」と「能動的な運転手支援」

最後に、今回紹介してきた運転手支援技術を、自動車の技術者はこれまでどのような開発姿勢で作ってきてこういうシステムの形になってきたかという背景を考えておきましょう。これにより今後の動向も自然と見えてくるはずです。

コンピュータビジョンはカメラの映像を自動解析して人間の視覚のように情報を取得する「受動的(passive)」な技術です。その受動的なビジョンの技術を自動車で活かそうとした際に、カメラ映像を解析して情報を取得するところは受動的でも、その情報を我々人間や機械を動かしているユーザーにすぐに提供することで「能動的な(active)」な役割も果たすことが可能になります。

例えば、この後紹介する車線逸脱警告システムでは、レーンと自車の位置関係をカメラ映像からリアルタイムで計算しておくことで、運転手がレーン変更をしたいわけではないのに不注意でレーンをはみ出して隣の車線に乗り出した場合(=受動的なビジョンによる解析)、警告音を鳴らすことで運転手に警告を行います(=能動的な警告音による働きかけ)。

自動車系の技術者の間では「人間の運転を無視するレベルでカメラから取得した情報だけを信頼して自動車を自動的に制御することはさすがに危険だ」という姿勢での技術開発がなされてきました。つまり、自動車ではビジョン技術の完全に能動的な使い方は現在のところあまり好まれていません。その理由ですが、例えば歩行者の検出や道路標識などで使用できる現状のビジョンの技術では、誤認識率を完全にゼロにする事が難しいという点が大きな理由です。この「ビジョン技術だけだと誤認識が完全には取り除けない以上、取得した情報を完全に信頼して車を"完全に"制御するわけにはいかない。人の制御する余地も必要である」という考え方は、世界の自動車エンジニアの中でも主流と思われます。

従ってこれらの「ビジョン情報だけを用いた」運転手支援システムでは、能動的で積極的な自動車の制御は最低限にとどめ、「警告音を鳴らす」や「ガイド表示をする」などのみを行い、あくまで最終制御は人間に任せるという「警告システム」が現在のところは主流です。これが、アンチブレーキロックシステムなど、ハンドル系の支援の技術では、加速時計などでより安定して信頼できる情報を元に制御するので話は別です。今後は複数のセンサからいかに信頼度が高い自動車制御を実現できるか次第で、完全とは言わずとも半自動制御以上の運転手支援システムが徐々に普及していくはずです。

まとめと今後の展望

以上、今回は様々なコンピュータビジョンベースの「自動車運転支援システム」を紹介しました。車載システムには今回仕組みを紹介したもの以外にも、駐車時に駐車がしやすいように後方の映像や空から車を見た鳥瞰映像を合成して表示してくれる「駐車支援システム(例:日産アラウンドビューモニタ)」や、前方映像から各種道路標識を検出してその種類を認識してくれる「標識認識」システムなど、まだまだ沢山のカメラベースの技術が使われています。

現在自動車の研究では運転手の操作が必要としない、車の完全自律移動(オートクルーズコントロール)の実現に向けたコンピュータビジョン技術の研究が盛んです。しかし、1台のカメラ映像では、高速道路のような舗装されてレーンがはっきり撮影できる環境では自動車の自己位置をしっかり把握できるものの、悪天候時や夜、逆光時など、カメラの見え方が悪くなる条件では、安定して道路状況の認識をすることが難しいです。よってカメラからビジョン技術で取得した情報だけでなく、レーダーやGPS、モーターの回転数やハンドル情報など、他の各種センサの情報と相互に連携することで安全性をより高めるシステム開発が自動車では非常に重要となっています。

また、視線方向推定や顔認識の技術などを用いることで、車内の運転手の行動を把握する技術の研究や開発も進んでいます。これらは自動運転志向ではなく、マニュアル運転時の運転手の様子を自動的に解析することで、運転手の危険防止や満足度向上に役立てようという発想の技術です(人体に関する画像センシングは自動車以外のものもまとめた上で紹介予定です)。このように車外、車内の双方で、自動車ではコンピュータビジョン技術が今後も大きく活用されていくと思います。自動車が好きな方に限らず、自動車でのコンピュータビジョン技術の動向には今後も注目してみてください。