第1回のおさらい

第1回では、ハイブリッドクラウドについて、定義と浸透してきた背景について説明しました。主にコストとコンプライアンスの問題からパブリッククラウドへ完全移行できるユーザーは多くないこと、柔軟で運用性に優れるパブリッククラウドを適材適所で活用するユーザーが増えたこと、旧来のUNIX環境を維持せざるを得ないユーザーも少なくないためオンプレミス環境も維持されていることが、ハイブリッドクラウドの利用が進んでいる理由でした。

また、ハイブリッドクラウドは利用者によってシンプルであるが、インフラ自体は複合化され複雑化し、データ保護はこの複雑なインフラに対して実施しなければならない点も説明しました。

今回はハイブリッドクラウドのような増大する複合インフラを確実に保護するための課題と理想像について見ていきます。

増大する複合インフラを確実に保護するための5つの課題

増大する複合インフラを保護する上で、主に以下のような課題があります。

  1. データ保護環境がサイロ化され運用負荷が増大
  2. バックアップが想定時間内に終わらない
  3. リストアが要求時間内に終わらない
  4. バックアップし忘れるリスク
  5. 復旧操作ミスによる2次災害

それでは、それぞれの課題の詳細を確認してみましょう。

課題(1)バックアップシステムがサイロ化され運用負荷が増大

インフラが増大・複合化する要因は、データの増大だけでなく、新規プロジェクトによる新規システムの追加が考えられます。その際、場当たり的にそのシステムのみを対象とした新規バックアップインフラを構築すると、システムが増加するたびにバックアップインフラもサイロ化され、運用管理者が管理する対象も増え続け運用の負荷につながります。

このようなサイロ化は大所的にインフラ全体を見ず、局所的にそのシステムのみにフォーカスした場合に発生しやすくなります。その要因としては、以下の3点が考えられます。

要因(1)局所的なコストにフォーカス

予算がプロジェクト単位であり、そのシステムのみに対応できる必要最低限のバックアップシステムをコスト優先で選定することでプロジェクト単位、システム単位にバックアップシステムがサイロ化してしまう。

要因(2)局所的な機能要件にフォーカス

特定のシステム要件のみにフォーカスし、そのシステムのみに最適なバックアップソリューション(機能)を選定した結果、プロジェクト単位、システム単位にバックアップシステムがサイロ化してしまう。

要因(3)バックアップシステムに拡張性がない

既存のバックアップインフラに拡張性がなく、新規システムを取りこめない。結果システムが増大するごとにバックアップシステムもサイロ化してしまう。

サイロ化を回避するための対策はこれらの要因の裏返しとなります。

対策(1)全体運用コストを見据えた選定

バックアップシステムはシステム単位ではなく全体を網羅することに加え、コストも局所的ではなく全体を統括した場合の運用コストも念頭に置く。

対策(2)網羅的に全体を統合できるバックアップシステムの選定

局所的システムに最適なバックアップソリューションではなく、インフラ全体の必要機能要件を満たせるバックアップシステムを考える。

対策(3)拡張性のあるバックアップシステムの選定

性能・容量・機能の拡張性を持った、インフラ全体を統合できる3ティアのアーキテクチャによるバックアップソリューションを選定する。

インフラ全体を統合できる3ティアのアーキテクチャの仕組み

課題(2)バックアップが想定時間内に終わらない

一般的には、1日に1回のバックアップが求められます。場合によっては、あるバックアップが完了しないと次のバッチジョブに移れないという理由で、より厳しいバックアップ時間を求められる場合があります。バックアップが想定した時間で終わらない要因としては、以下の2点が考えられます。

要因(1)データの増大

保護対象のデータ量が増大し、バックアップも時間がかかるようになる。

要因(2)バックアップシステムのサーバがボトルネック

バックアップデータの転送先のサーバがボトルネックになり、バックアップ時間が長期化する。

「バックアップが想定時間で終わらない」ことを回避するための対策は、より短時間でバックアップを完了でき、拡張性があるソリューションを利用することです。以下、具体的な対策をまとめてみました。

  • 対策1:重複排除技術による永久増分による仮想フルバックアップ合成機能
  • 対策2:バックアップデータ転送サーバ(メディアサーバ)が拡張できる3ティア構造であること
  • 対策3:バックアップソフトによる、保護対象サーバとの関連性を認識した上でのストレージコピーまたはレプリケーション制御

永久増分による仮想フルバックアップ合成の効果

残りの3つの課題については、次回に説明することにします。

勝野 雅巳(かつの まさみ)

ベリタステクノロジーズ合同会社

テクノロジーセールス&サービス統括本部

バックアップ & リカバリーアーキテクト


1989年に日商エレクトロニクス株式会社に入社。UNIXによるメインフレーム端末エミュレータ、E-mail専用アプライアンス、NAS製品、バックアップ製品の保守、デリバリー、プリセールスSEを歴任。その後2001年EMCジャパン株式会社にバックアップソリューション担当SEとして入社。 2013年、株式会社シマンテックにバックアップソリューション担当SEとして入社。2015年、株式会社シマンテックからベリタステクノロジーズ合同会社の分社に伴い、現職となる。

IT系商社時代から約20年にわたり、データ保護の専門家として業種の如何を問わず、提案活動を通してお客様のデータ保護に関する課題を数多く解決してきた。現在は提案活動と併せて、豊富な経験をもとにセミナーなどにおける講演活動やメディアへの記事執筆を行い、社内外にデータ保護のあるべき姿について啓発を続けている。趣味はテニス。