先ごろスイスのジュネーブで開催された、「第86回ジュネーブ国際モーターショー」で、タイヤメーカーの米Goodyear Tire & Rubber Companyが展示した、ボール状のタイヤが大きな注目を集めている。海外メディアはこぞってこの話題を採り上げている。

図1 球状のタイヤで走るGoodyearのコンセプトカー (出典:Goodyear)

このボール状のタイヤ「Eagle-360」は、一般の乗用車では4輪タイヤの代わりに4つ搭載されるように設計されている。もちろん、未来のクルマ、特に自動運転車への搭載を狙って作られたものだ(図1)。このタイヤは、自動運転車での操作性の改善を狙い、クルマとの接続性(Connectivity)をしっかり確保し、さらには生物のサンゴを模したようなタイヤ表面形状を持つ(具体的なイメージは参考資料1の動画を参照)。

完全な球状のボールをタイヤにした形は、最新のハリウッド映画「スターウォーズ」に登場する、丸いボールで走るロボット「BB-8」を思い浮かべる(図2)。雪だるまのような形をしており、BB-8という名前のBBは、RobotをイメージするBall-botと呼ばれていたようだ(参考2、3。その8は、8番目ではなく、形が8の字に似ていることから来ているという。Ballbot-8からBB-8と呼ぶらしい)。

図2 映画「スター・ウォーズ/フォースの覚醒 (Star Wars: The Force Awakens Featurette)」に登場する新型ロボットBB-8 (出典:Star Wars YouTube Channel)

Goodyearが今回、未来の自動運転車に向けたタイヤとして提案したボール状のメリットは、究極の運転しやすさであり、ボールゆえにすべての方向に動くため、安全性の向上につながるという。これはタイヤ内部に、組み込まれたセンサが道路状態をモニターし、それをドライバーやクルマのECU、あるいは近くのクルマなどに伝えることで、安全性を上げることができるようになるとしている。タイヤの中に、センサやエレクトロニクス回路、送信機を入れる技術は、新車に「TPMS(Tire Pressure Monitoring System)」の搭載が義務化されて以来、すでに実績が積み上がってきている。

加えて、駐車場の縦列駐車にも簡単に対応できる。そのまま真横に動けるからだ。縦列駐車場から出る時も真横に出てから、そのまま道路に沿って進めばよい。Uターンも簡単で、混雑した道を対向車線に移って、そのままバックすることも容易にできる。それも自動運転ならなおさら容易だ。

タイヤの表面形状は、自然界のサンゴの形に学び、この形状を3Dプリンタで踏み面パターンを模倣している(図3)。こうすると自然のスポンジのように、道路が乾いた状態では球状タイヤは固くなり、雨などで濡れていると柔らかくなってスリップ抵抗を上げるように働くという。

図3 サンゴを模したタイヤの表面形状 (出典:Goodyear)

肝心の走行に関しては、磁気浮上技術を使うとしている。常に浮いていれば地面の形状や条件に依存しないため、ガタガタすることもなく乗り心地は快適なはずである。ただし、回転をどのように与えるかについては、同社のプレスリリースでは述べられていないし、このタイヤを採り上げた海外メディアもそれにはまったく触れていない。

磁石はすべてN極とS極がある。同じ極同士なら反発し合い浮上できる。ただし、タイヤの回転とは別の話である。タイヤの回転は、やはりモータを利用するのであろう。モータの動作のようにN、S、N、Sを交互に変えることで反発を回転に変えていく。ただし、モータのデザインと、その駆動力をボールの回転につなげるような仕組みを開発する必要がある。タイヤの中のモータに電力を供給するには、無線を利用できる。電気自動車用の無線給電は85kHz程度の低周波でkWクラスの電力を供給しているため、これは可能である。

では、その内部モータを回転、停止、向きの変更、回転回数の変更などの制御技術も必要になるが、これはどうするか。これにも無線技術を使うが、これはMHz以上の情報を電波に乗せて送ればよい。自動運転ではクルマ内のモータ制御用の信号を作り出し送るだけではなく、歩行者や他のクルマなどの障害物を認識し、避けるため情報を素早く得るための演算能力も求められる。すなわち、いわゆる情報系の演算プロセッサからモータ制御システム、さらに球状タイヤ内のモータを制御するための時間、など一連の制御テクノロジーの演算・処理・制御の全体に渡るレイテンシを少なくとも10ms程度にまで縮めなければならない。このためには半導体チップへの要求はもっと高速化が求められることになる。ただしこれらはあくまでもクルマ側の処理でタイヤ側ではない。

この技術はタイヤメーカーと議論を進め、標準化できる所はライバル会社と一緒に標準化を進めていく努力も必要になる。無線関係は標準化した方が開発効率は高い。今回のボール型タイヤは将来の自動運転に向けた技術の1つとして、タイヤメーカーとクルマメーカー、ティア1、2メーカーなどとコラボする価値があるだろう。

参考資料

  1. 「The Goodyear Eagle-360 concept tire」(2016/02/29)
  2. 「BB-8: Everything You Need to Know About the New Star Wars Droid」(2015/08/26)
  3. 「BB-8について知っておくべき9つのこと【『スターウォーズ』新ドロイドの仕組みまで徹底解説!】」(2015/12/18)