今回は、現在世の中にあるCADの種類やその用途について、お話していこうと思います。

ここでは主にものづくり用、つまりプロダクト設計用と謳っている製品を中心にご紹介します。CADというとCG用のソフトウェアやサーフェス モデラーを含める考え方もありますが、ここではソリッドモデラーに限定してお話します。

ハイエンドとミッドレンジ

まずは、現在流通しているCADの代表的なものをリストアップしてみましょう。CAD製品のカテゴリーとしてよく使用されるのは、ハイエンドCAD、ミッドレンジCADという言い方です。これは主に、機能差と価格帯の差です。

・ハイエンドCADと呼ばれる製品の主なもの:価格帯が平均で数百万円単位

製品名 開発元 初版リリース
CATIA ダッソー・システムズ社 1977年
NX(Unigraphics にI-DEASを統合) シーメンスPLMソフトウェア社 1980年(Unigraphics)
Creo(旧 Pro/ENGINEERとOneSpace Designerを統合) PTC社 1988年


・ミッドレンジCADと呼ばれる製品の主なもの:価格帯が百万円前後

製品名 開発元 初版リリース
SOLIDWORKS ダッソー・システムズ ソリッドワークス社
(米SolidWorks社をダッソー・システムズが買収)
1995年
Solid Edge シーメンスPLMソフトウェア社 1996年
Inventor オートデスク社 1999年
iCAD SX iCAD社 1980年代
(詳細未確認)

第1回目で書いたCADの歴史に通じるところがありますが、全体的に歴史が長いのがハイエンドCADです。初期のCADはそもそも大企業や研究機関での高度な製品開発や研究のために生まれたものですから、高機能であり、その分価格も高いものになっています。現在も使用されている主な業種は、自動車業界、重工業界などです。CATIAはこれらの業界に加えて宇宙・航空業界でもスタンダード的に使われています。これは、ボーイング社がCATIAをメインで使用しているからです。また、Creoはこれら自動車や重工業界に加えて大手電機メーカーで多くの顧客を獲得しています。

このように、ハイエンドCADは中小企業で導入するにはハードルが高いソフトウェアが中心です。ハイエンドCADの中ではリリースが遅いPro/ENGINEERは、当時としては画期的な、比較的使いやすいユーザーインタフェースを搭載しており、1990年代初頭にはまだ設計の現場では主流ではなかった3D CADを普及させた実績がありますが、価格帯はハイエンドCADのままでした。

そこで登場してきたのがミッドレンジCADです。多くのハイエンドCADは、モデリング機能に加えて応力や機構などの検証を行うメカニカル解析機能や加工用のNCプログラムを作成するCAM機能など、ものづくりのプロセスで必要なあらゆる機能を取り揃えていることが高価格の一因でした。

ミッドレンジCADはその点を解決し、低価格化を実現しました。どの製品もリリース当初は設計において必要最低限のモデリング機能と作図機能のみを備えていました。そしてさらに特徴的なのは、ハイエンドCADよりも操作が簡単にできるようなユーザーインタフェースで提供されていたことです。

ほとんどのミッドレンジCADは、ハイエンドCADで顧客の満足度が足りないところを、吸収すべく開発されました。価格はもちろんのこと、「直感的に使用できるユーザー インタフェース」というのはどの製品もアピールポイントとして謳っています。また、ハイエンドCADが専用のワークステーションで使用することが前提になっているのに対してミッドレンジCADは、より低いスペックのPCで使用できることも特長としています。これらミッドレンジCADが登場した1990年代後半以降、設計現場で3D CADの普及が一気に加速しました。

同時にこのミッドレンジCAD市場の競争も熾烈となり、価格に大きな変更はないものの、バージョンアップごとにどんどん機能が充実していきました。今ではほぼどのミッドレンジCADも、解析やCAM機能を搭載しています。さらに、3D CADで複雑な製品を設計し始めるとデータを効率的に管理する必要がありますが、このためのツールも同時に提供されるようになりました。このようなミッドレンジCADの開発競争は、リリース当初から2000年代ほどの加速度はありませんが、今でも継続しています。

このミッドレンジCADの中で、独自路線の製品を開発しているのがiCADです。ここでご紹介しているCAD製品のほとんどは欧米で開発されているものですが、このiCADは唯一日本産のCADです。そのため、日本の顧客のニーズを十分に読み取った製品開発が行われており、一定の支持を集めています。

ミッドレンジCADの導入実績がある業種はハイエンドCADと基本的には同じですが、全体的にハイエンドCADよりは価格が低く抑えられているため、中小規模の協力会社まで3D CADが普及するようになりました。

近年は無償CADも登場

ハイエンドやミッドレンジというカテゴリー以外にここ数年の傾向として、無償で使用できるCADや、クラウドベースのCADが登場しています。

ハイエンドCADに比べれば低価格にはなったミッドレンジCADですが、それでも小規模企業や個人で購入するには高価です。2000年代後半から2010年代前半頃の一時期、ミッドレンジCADよりも低価格なローエンドとも呼ぶべきCAD製品がいくつかのCADベンダーからリリースされた時期もありましたが、それらの多くは既存のミッドレンジCADの機能限定版である場合が多く、その限定的な機能のせいで広く普及するまでには至っていません。

そして、2010年代に入ってから3Dプリンタが急速に普及したことで、ビジネスユースだけでなく、趣味レベルでも3D CADのニーズが高まりました。このような社会情勢に合わせるように、より低価格、場合によっては無償で使用できるCADが登場してきました。

その代表的な製品を挙げてみます。

製品名 開発元 提供形態、価格設定
Fusion 360 オートデスク社 クラウド、条件付き無償
Onshape Onshape社 クラウド、条件付き無償
FreeCAD (オープンソース) 無償提供(一部有償)
123D Design オートデスク社 クラウド、条件付き無償

ここに挙げたCADの中で「条件付き無償」となっている製品はすべて、商用利用(そのCADで設計した製品を実際に商品化して収益を上げる行為)でなければ無料で使用することができます。(Fusion 360は、商用利用でも年間売上高が1000万円未満のビジネスの場合は無償利用可能)。このような製品の台頭と3Dプリンタの普及によって3D CADを使用する人たちの裾野が一気に広がりました。

各3Dプリンタメーカーのウェブサイトを見ると、サンプルモデルが多数用意されており、好みのものを選んでプリントできるようになっています。しかし3Dプリンタを使う以上、「自分で自分の思い通りのものを作りたい」と思う人も多いでしょう。

そんなニーズにちょうどマッチして多く使われるようになったのが、123D Designです。CADや設計の知識がまったくない人でも、直感的な操作で非常に簡単に立体を作れるようになっているCADです。趣味のレベルでのモデリングであれば、十分な機能を備えています。

これに対し、ものづくりに関わる人々のあらゆるニーズに答えるために、商用利用にも耐えうる、ある程度の機能を備えた3D CADとして登場してきたのがFusion 360Onshapeです。これらは開発開始時期が2010年以降であり、その時代背景からクラウドテクノロジーを利用して、より軽快な使用環境で、より低価格で使用できるようになっています。

特にFusion 360は現在では、モデリング機能のみならず、メカニカル解析やCAM機能まで備えるようになり、機能的にも同じオートデスク社のミッドレンジCADであるInventorに迫る勢いになっています。Onshapeも、ミッドレンジCADの基本的な機能は備えています。

参考までに、Fusion 360は必然的にInventorと共通する使用感がありますが、OnshapeはSOLIDWORKSに近い使用感があります。これは、Onshapeの創設メンバーがSolidWorks社出身者だからでしょう。

筆者は、今後この2つが3D CADのより幅広い普及に大きく貢献していくのではないかと考えていますが、現状では自由曲面形状作成が得意な「フリーフォーム モデリング」ツールを持つFusion 360がリードしている印象です。この点は、従来CADとは縁が遠かった種類の製品の設計にもCADを導入する流れができつつあることからもわかります。

筆者はよく、これからCADを導入してビジネスを広げたいと考えていらっしゃるお客様とお話しさせていただきますが、今まででは考えられなかった業種の方が増えています。例えばジュエリーやメガネのフレームなど、従来のCADベンダーがあまり積極的に顧客とは考えていなかった業種です。微妙な曲線が必要な製品であり、これは、第1回目で書いた2次元CADからの流れとは別のニーズが生まれ始めているということだと思います。そこを先取りしたのがFusion 360ではないでしょうか。

データのデジタル化(電子化)は世の中全体の流れであり、低価格化および無償化により、あらゆる業種、あらゆる人々がデジタル データの恩恵にあずかれるようになってきた昨今、ものづくりの世界は多くの夢を実現可能にしていくことでしょう。

次回は、これら3D CADで使用されているファイル形式についてお話していきます。CAD製品ごとに独自のファイル形式を持っているので、CAD間でデータのやり取りをする際に、この知識は必須となります。できる限り、どなたにもわかりやすくお話しすることを心がけています。お楽しみに!

著者紹介

草野多恵
CADテクニカルアドバイザー。某製造業企業の設計部に約6年間所属。その後、3D CAD業界に転身し、ベンダーの立場からCADの普及活動を行う。現在は独立し、ユーザーの目線に立ち、効果的なCAD導入を支援している。