200mmの中古装置が枯渇状態に

200mmの製造装置の多くがすでに製造中止となっており、欲しければ中古市場で探さねばならない。しかし、韓国に本拠を置く世界規模の半導体中古装置装置ディーラーであるSurplusGLOBALによれば、市場での200mm中古装置の取扱量は2014年ごろから減少し始め、2015年には300mm中古装置の数が200mm中古装置数を上回った(図9)。今後、300mm中古装置は余剰の方向へ、200mm装置はさらに枯渇の方向へ進むだろうと同社は見ている。現在、200mmの中古装置の供給元の92%はアジアであり、2016年第1四半期に韓国から約500台の装置がまとまって放出された。メモリ大国の韓国勢には200mmファブを延命する考えはない。

図9 中古半導体市場への200mmおよび300mm製造装置の供給量。縦軸の単位は台数、横軸は西暦(年) (出所:SurplusGLOBAL)

200mm中古装置の枯渇により、取引価格の値上げが続いており、とりわけ中古リソグラフィ(露光)装置の取引価格が急騰しているとSurplusGLOBALは指摘する。このため、露光装置メーカーでは、200mm以下のウェハサイズに対応する装置を新たに発売したり、リファービッシュサービス(中古市場へ売却されたり、廃棄された装置を修理・保守点検して新品同様な性能に仕上げるサービス)を行っている。

キヤノンは今夏(2016年7月)、アナログ/センサ/通信などのIoT関連機器やパワーデバイス向けに、100~200mmウェハ対応露光装置(KrFエキシマレーザ・ステッパ:露光波長248nm)を発売した(図10)。同製品は, シリコン/サファイア/SiC/ガラスなど、さまざまな材質/径/厚さの基板搬送に対応できる。

図10 アナログ/センサ/通信などのIoT関連デバイスやパワーデバイス向け半導体露光装置「FPA-3030EX6」 (出所:キヤノン)

2020年以降の200mmファブはどうなる?

SEMIの200mm需要予測は2019年で終わっているが、2020年代はどうなるであろうか。

SurplusGLOBALがその先まで予測しているので、それを元に推測してみたい(図11)。もう一度、200mm需要をていねいに見直してみよう。2013年時点で、200mmファブでの生産能力は同年以降長期低落すると予測されていた(図11中の赤丸の枠内の白い点線で表示)。しかし実際には、黄色の実線のように落ち込みは予想よりも少なかったため、2016年時点で予測を修正し、今後は増加すると改めた(あくまでも期待を込めた予測にすぎない)。これは、前述したように200mmウェハでの製造が適していると言われるアナログ・センサ・通信などIoT関連や多数のセンサを搭載した自動運転車や多多機能スマートフォンなど新用途の登場による。

それでは、復活した200mmは今後も長く成長を続けるだろうか。答えは否だ。2010年代に導入が予想され、準備されてきた450mmウェハの生産導入が、大幅に遅れており、2020年にずれ込む見込みである。450mm化を先頭になって推進してきたIntelが、PCび需要凋落やモバイル向けビジネスへの参入失敗などで業績が悪化しており今春1万人を超える人材リストラをせざるを得ない状況に追い込まれている。同社はファウンドリ業まで始めてともかく既存300mmラインを埋めるのが先で、450mmどころではない状況だ。新興ファウンドリとしてのIntelを迎え撃つ老舗ファウンドリのTSMCやSamsungはますます困難さを増す10nm以降の超微細化に全精力で取り組んでおり、大口径化どころではない。しかし、2020年以降、IoT関連で高性能品の需要が増加し、半導体業界の景気が好転し、450mm移行がはじまれば、老朽化した300mmファブが空くから、そこへさらに老朽化して息絶え絶えの200mmファブでの生産品が移管され、200mm需要は急激に落ちるとSurplusGLOBALはみている(図11中の2020年以降の黄色折れ線参照)。

200mm装置は、とっくの昔に耐用年数を過ぎているから故障の連続で保守費もかさみ、修理部品もそのほとんどがディスコン(製造中止)状態で、自作するしかない。マニュアル操作の古い装置を操れるベテラン作業者もほとんど定年退職でいなくなってしまった状態で、200mmファブの稼働は現状でも困難をきわめており、2020年代になればなおさらだ。

やはり300mmで差異化を図るトップ企業

SEMICON Westの200mm半導体製造フォーラムはSEMI中古半導体装置利用検討分科会グループの主催であるから、200mmばかりではなく300mm中古装置に関する講演もあった。アナログ半導体業界でトップを独走するTIは、「300mmウェハを用いたアナログデバイスのサクセスストーリー」と題して講演を行っている。同社は、他社がいまだに200mmウェハを使用しているのを横目に見ながら、アナログ製品を300mmウェハで製造することにより大量生産し製造原価を下げ、ライバルにマーケットシェアで大差をつけている。テキサス州リチャードソンにあるRFABと呼ばれるアナログ量産工場の300mm装置の92%は日本を含む世界中の閉鎖300mmファブからかき集めた中古装置であるという。アナログデバイスはロジックほどの微細化を要求されないので、何世代も前の古い300mm装置で十分であり、他社が放出した格安の300mm装置を存分に活用できる。「TIがサクセスストーリーを語れるのは、中古300mm装置のおかげである」という。

ソニーのイメージセンサやInfineonのパワーデバイスなども300mmウェハを使うことによって、生産量や製造原価の点で、老朽化した200mmファブで200mmウェハを使うライバルにマーケットシェアで大きな差をつけていることはよく知られている。

IoTはクラウドの負担軽減のためエッジコンピューティング重視の方向であり、エッジ側は、安物のセンサや信号処理回路では儲けが出ないので、300mmウェハ用先端技術を用いて1チップ化や高付加価値化へ向かう可能性が高い。

しかるに、日本にはDRAM全盛時代に次々建設された200mm以下のファブが世界で一番多く残存している。まるでつわものどもが夢のあとの歴史的遺物のような光景だ。台湾勢が200mmファウンドリに力をいれてきたため、最近200mmでの生産能力では台湾が日本を抜いてトップになったが、150mm以下の生産能力は、依然として日本が世界トップのままである。以前はまったく予期していなかった小口径ウェハの需要復活で200mmファブは何年か"延命"できるかもしれない。しかし、日本が老朽化した200mm(およびそれ以下)ラインの延命と低付加価値のチップの生産に熱心になっている間に、中国が低コスト生産でとてつもない半導体大国になり、台湾勢が中国に進出し、韓国が巨大300mmファブで高付加価値品の大量生産で対抗して、世の中の状況はすっかり変わってしまっているかもしれない。

図11 200mmウェハの消費面積の1991年から2040年に至る推移。赤丸枠内の白色点線は2013年時点の予測、黄色実線は2016年時点での修正。150mm、300mmについても併記されている。450mmについては時期のみ予測している。橙色点線は以前の予測、実践は2016年時点での修正。縦軸は消費される半導体基板面積(単位は100万平方インチ)、横軸は西暦 (出所:SurplusGLOBAL)