2025年4月、アイロボットジャパンは異例ともいえる規模の新製品発表を行った。全6機種のロボット掃除機「ルンバ」、一度にここまで多くの製品を同時にリリースするのは、同社にとっても初めての試みだ。
ロボット掃除機市場の競争が激しさを増す中で、多様なユーザーに応える製品をどう届けていくのか。その裏には、現場が力を発揮できるチーム作りがあった。アイロボットジャパン 代表執行役員社長 挽野元(ひきの はじめ)氏に話を聞いた(以降、敬称略)。
―― ルンバは単身者向けのモデルから、子育て世帯やペットを飼っている家庭向けのモデルまで幅広い製品が登場し、選択肢が大きく広がっています。業界全体を見渡すと、参入するメーカーも増えており、競争がますます激しくなってきたのではないでしょうか。
挽野:さまざまなメーカーが市場に参入し新しい製品が出てきたことは、市場の活性化という点でも歓迎すべきことだと思っています。
ただ大きな課題があります。参入する企業が増えている一方で、市場全体があまり伸びていないことです。本来であれば、競争が活発になれば市場も拡大していくはずですが、日本市場はそうなっていません。特に昨年(2024年)は、私たち自身も投資をかなり抑えていたこともありますし、コロナ禍における巣ごもり需要の反動もあったでしょう。
今年(2025年)は、弊社の構造改革が一段落したこともあり、新製品を起点に再び投資を強化し、市場を活性化させていきたいと考えています。私たちアイロボットが先頭に立って推進していきますが、他社さんにも一緒に取り組んでもらい、ロボット掃除機全体の市場を再び成長軌道に乗せていくことが、今もっとも重要だと考えています。
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アイロボットジャパン 挽野元 代表執行役員社長
日本ヒューレット・パッカード株式会社 取締役執行役員 イメージング・プリンティング事業統括、ボーズ株式会社 代表取締役社長を経て、2017年にアイロボットジャパンの代表執行役員社長に就任。2018年からはアイロボット・コーポレーション アジア太平洋地域統括副社長を兼任
―― 競合が増える中で、ルンバとしては今後どのように戦っていこうとお考えですか。
挽野:やはり「ルンバ=ロボット掃除機」というイメージがあるように、ブランド力は私たちアイロボットにとって非常に大きな武器です。実際、日本国内で600万台、世界では5,000万台を超えるルンバが累計で出荷され、ご家庭で愛用いただいています。ユーザー数の多さは圧倒的で、それが信頼の証しでもあると思っています。
現CEOのゲイリー・コーエンが就任してからは、開発体制を大きく見直しました。アイロボットのラボで生まれたイノベーションを、アジアのパートナー企業と連携して製品化していくという新しい体制を確立しています。このスピード感ある開発体制と、圧倒的なユーザーの数が組み合わさることで、アイロボットならではの価値を提供できると考えています。
―― アイロボットの社員の皆さんを取材していると、エンジニアの方々もマーケティングの方々も、本当にルンバへの思い入れが強いと感じます。こうした“製品愛”は、どのように育まれているのでしょう?
挽野:私がこの仕事(アイロボットジャパン 代表執行役員社長)に就いたのは2017年の3月ですが、それ以前はセールス・オンデマンドさんというすばらしいパートナーがルンバを育ててくれていました。まさにゼロから市場を開拓して「ルンバを家庭の定番」にしてくれた立て役者です。当時、ルンバに携わった方々の多くは、今もチームに残って活躍していて、まるで子どもを育てるような気持ちでルンバに向き合ってくれています。そうした皆さんの熱量こそが、会社全体のエネルギーの源になっていると思います。
私のように外部から加わったメンバーも、そうした熱量の輪にそれぞれの専門性を持ち寄ることで、さらに強いチームができています。おっしゃるように「ルンバ愛」はみんな強いかもしれません。「こんなにすてきな製品なので皆さん知ってください!」という思いで仕事に取り組んでいます。自社の製品を愛しているメンバーが多いことが、当社の強みのひとつです。