アストンマーティンが新型プラグインハイブリッド車(PHEV)の「ヴァルハラ」(VALHALLA)を日本で公開した。本拠地のゲイドン(英国)以外でのお披露目は今回が初めてとなる。同社にとって「初めて尽くし」のヴァルハラは999台の限定生産。価格は1.289億円、生産開始は2025年第2四半期の予定だ。
電気を走りに「全振り」したPHEV
ヴァルハラはアストンマーティン初のPHEVだ。同ブランドがミッドエンジンの量産車を生産・販売するのも今回が初めてとなる。日本では受注が始まったところだ。
「PHEV」は充電可能なハイブリッド車(HV)といった感じのクルマ。プラグを差してあらかじめ充電しておけば電気(モーター)だけで走れるので、ちょっとしたお出かけならガソリンを使わずに済む「エコなクルマ」というイメージだ。でも、見た目からもわかる通り、ヴァルハラの性格は一般的なPHEVとはまるで違う。
ヴァルハラは電気(モーター)を走りに「全振り」しているPHEVといえそうだ。フロントに2基、ギアボックスに1基の計3基のモーターは、4.0LのV型8気筒ツインターボエンジンをアシストするためにのみ存在する、といっても過言ではない。その結果としてヴァルハラは、最高出力1,079PS、最大トルク1,100Nm、ゼロヒャク加速2.5秒という異次元の性能を獲得している。
ちなみにヴァルハラには、電気だけで走る(ガソリンを節約できる)走行モード(EVモード、フロント2基のモーターで走る)も備わっているが、フル充電であったとしてEV走行距離は14kmでしかない。三菱自動車工業の「アウトランダーPHEV」なら100kmを超えるところだが、ヴァルハラはEV走行距離の長さを売りにするつもりがないらしい。電気とV8の合作による新たな走りが、このクルマ最大の注目ポイントということなのだろう。
アストンマーティンのファンはPHEV容認? それともアンチ?
ところで、アストンマーティンのファンは、ヴァルハラがPHEVであることやミッドエンジンであることについてどう思っているのだろうか。「らしくない」と言って怒っているのか、それとも、「ボンド・カーを作ってきたアストンなのだから、ハイテク化は当然だし歓迎すべきだ」と言って喜んでいるのか。ヴァルハラの発表会に登壇したサム・ベネッツ(Sam Bennetts)さんに聞いてみると、「アストンマーティンには、大きく分けると2つのお客様グループがあるんです」と語り始めた。
「1つ目のグループは、これまでにアストンマーティンを所有したことのない方たちです。彼らは技術的な部分、例えばエンジン、ハイブリッドシステム、カーボンファイバーの使い方などについて深い関心を抱いていて、非常に細かく見る方たちなのですが、彼らはヴァルハラに高い関心を示してくれています」
こうしたニューカマーの中には、若い人もけっこういるとべネッツさん。「クリプトカレンシー」(暗号通貨)で財を成した人や「バンキング」(銀行業)を生業としている人たちで、ヴァルハラ以外だと例えばマクラーレン「750S」やフェラーリ「SF90」、あるいはヘリコプターなどにも関心を抱くグループなのだという。最新のスーパーカーに興味を示す若き潜在顧客にアピールする上で、ヴァルハラはアストンマーティンブランドにとって大切なクルマになるというのがべネッツさんの考えだ。
「2つ目のグループ」は古参、コレクターを含む既存のアストンマーティンファンだが、彼らもヴァルハラには強い関心を示しているとのこと。例えば今回、日本にヴァルハラを運んできて青山(東京都港区)の店舗に持ち込んだところ、朝の9時から夜の19時まで、見に来る客は一度も途切れなかったという。
潜在顧客からも既存の顧客からも大きな関心を集めているというヴァルハラ。日本円で1億円を超える超高級車だが、限定999台は案外、すぐに売り切れるかもしれない。それを踏まえて「(注文するなら)急いだほうがいいですか?」とべネッツさんに聞いてみたところ、「もし1台欲しいのであれば、その通りです」との回答だった。
ちなみに今回のヴァルハラはクーペタイプだが、「スパイダー」(屋根が開くタイプ)の企画も進行中とのこと。実現すれば、こちらもおそらく日本に入ってくるはずだ。