宇宙航空研究開発機構(JAXA)と米国航空宇宙局(NASA)は9月22日、9月21日付で複数の宇宙科学ミッションについて両機関が協力していく方向性を確認したことを受けて、これらの協力をさらに強化していく決意表明に向けた記者向け説明会を開催した。

今回の協力関係の確認は大きく分けて2つ。1つは、運用断念となったX線天文衛星「ひとみ(ASTRO-H)」の代替機での協力の取り付け。もう1つはJAXAが主導して進めている火星衛星探査計画(Martian Moons eXploration:MMX)への協力の取り付けである。

2020年度の打ち上げを目指すX線天文衛星代替機での協力について、JAXAの常田佐久 理事・宇宙科学研究所長は、「ASTRO-Hの失敗を越えて、NASAと協力ができることはありがたい」とし、これによりX線天文衛星代替機の運用までの間に生じるであろうX線天文学の空白期間を最小限に抑えることができるようになることを強調した。

具体的な協力内容としては、NASAが従来のコンポーネントを提供するパートナーという立場から、衛星システムを含むミッションレベルのパートナーへと位置づけが引き上げられることとなる。また、提供される主観測装置である軟X線分光検出器「SXS」がASTRO-H同様提供されるほか、地上の観測データ処理系についてJAXA/NASAが共同開発を行い、それぞれのデータセンターを通じて観測データの提供を行うことが予定されている。

もう1つのMMXについてだが、こちらは火星の2つの衛星(フォボスとダイモス)の近接観測を行うほか、フォボスの表層物質のサンプルリターンを行うことで、これらの衛星が宇宙の彼方から飛来したものを捕獲したものなのか(捕獲説)、ジャイアントインパクトによるものなのか(巨大天体衝突説)の起源論を決着させることなどを目指すもの。2024年度の打ち上げを目指しているMMXに対し、NASAからは、主に以下の3項目について協力がなされる予定だという。

  1. 中性子・ガンマ線分光計
  2. フライトダイナミクス
  3. サンプル採取に関わる検討

中性子・ガンマ線分光計は、元素組成や水素存在量の測定を行うための観測機器。NASAでは、水星や月探査などで、この観測機器の開発・運用をしてきた実績を有しており、今回、そうしたノウハウも含めて提供されることが予定されている。

フライトダイナミクスは、火星圏との往復や火星衛星周辺での探査機の飛行力学のモデル構築や航法検討などを行うために提供されるもので、火星探査で培われたNASAの知見が活用されることとなる。

そしてサンプル採取に関わる検討とは、JAXAとNASAの知見を組み合わせることで、最適なサンプル取得ポイントの選定や、サンプル採取装置の開発、運用といった技術のブラッシュアップにつながることが期待されている。 特にサンプル採取のための装置開発については、重力が小さな状態でどういったことが起こるのかを調べることが可能な試験設備などをNASAが有しており、こうした設備なども積極的に活用して開発を進めることで、コストと時間の節約ならびに機能向上を図っていくことが可能になるという。

MMXの概要と、NASAが協力する3つのポイント

JAXAは計画発表当初、フォボスかダイモスのいずれかのサンプルを採取し、地球に持ち帰るとしていたが、今回、「フォボス」とはっきりと行き先が示されたこととなった。フォボスを選択した理由について常田理事は、「フォボスは火星に近いので、技術的観点としては、多少、行きづらいという話はあるが、逆に科学的観点としては、火星に近いからこその、地表への火星由来物質の到達などの可能性が考えられる。そうした点でフォボスに行くことを決めた。これからの日米の協議の中において、最終的なプロジェクトとしての判断になるが、現時点でJAXAとしては(フォボスに挑むということについて)NASAの同意を得たと判断している」と説明。NASAと協力することで、より科学的成果があがる方向性を目指すとした。

なおNASAのトーマス・ザブーケン科学局長は、今回の協力関係の強化について、「今回の協力関係の構築は、今後の日米の宇宙関係に関する長期にわたるパートナーシップの第一歩となる。今後も双方で情報交換を継続し、相互補完的な新たな姿を模索していくことでも合意している」とし、両国の関係の強さに感謝を示すとともに、より多くの科学コミュニティの活性化につなげ、今後のより多くの成果の創出を目指して行きたいとしていた。

左がNASAのトーマス・ザブーケン科学局長、右がJAXAの常田佐久 理事・宇宙科学研究所長