東北大学は、高輝度光科学研究センター(JASRI)、大阪大学大学院基礎工学研究科、大阪大学大学院工学研究科、日本大学、および愛知医科大学と共同で、磁性合金薄膜にパルス光を照射することにより、これまでにない巨大な磁気の波が生成されることを発見した。

この成果は、JASRI(大河内拓雄 研究員、木下豊彦 主席研究員、中村哲也 副主席研究員、小嗣真人 研究員(現:東京理科大学)、阪大院基礎工(菅滋正 名誉教授(現:ドイツ ユーリッヒ研究センター)、関山明 教授、藤原秀紀 助教)、東北大(角田匡清 准教授、高橋宏和 大学院生(現:TDK 株式会社))、ドイツ ユーリッヒ研究センター(Claus. M. Schneider 教授、Roman Adam 研究員)、阪大院工(笠井秀明 名誉教授(現:明石工業高等専門学校)、坂上護 特任教授(現:フィリピン デ・ラ・サール大学)、Elvis F. Arguelles 大学院生)、日本大(塚本新 教授)、愛知医大(黒田寛人 教授)のグループの共同研究によるもので、9月12日、物理系学術誌「Applied Physics Express」にオンライン掲載された。

スピン波の概念図。今回の研究では(b)「伝搬スピン波」が観測された(出所:東北大ニュースリリース)

近年、物質の電子とスピンの両方の自由度を活用する電子工学「スピントロニクス」が注目されており、その中で、物質中に磁気の波(スピン波)を発生させて情報伝達に利用するという新規技術の応用が有望視され、世界的に研究が展開されている。

研究グループは、合金組成等の異なる数種類のGd-Fe-Co磁性合金薄膜を試料として、約 0.1ピコ秒の超短時間で発生するレーザーパルスを照射した時の高速のスピン運動の現象を、SPring-8の瞬間的(約50ピコ秒)に光る軟X線を用いて調べた。Gd-Fe-Co合金はレーザーパルス光を照射することでスピンの向きを「反転」できることは既に知られていたが、同合金の組成をうまく調整することで「伝搬スピン波」を発生させることができた。さらにこの伝搬スピン波は、近年報告されているスピン波の10倍以上の振幅を持つこともわかり、直接的に観測することに成功した。

パルス光を用いてスピン波が励起される現象自体はこれまでも知られていたが、この研究では、これまでにない「巨大なスピン波伝搬」という全く新しい現象を見出した。研究グループは、同現象の発見が、スピン波を利用した光-磁気スイッチング素子や高速磁気通信の実用化につながることを期待していると説明している。

Gd-Fe-Co薄膜にレーザーパルス光を照射した直後のスピンの向きの時間経過を示す図(出所:東北大ニュースリリース)