気象庁気象研究所は、同研究所で開発している全球エアロゾル輸送モデルに、新たにデータ同化技術を導入し、衛星観測から得られたデータを組み込むことで、高精度で欠損のない過去5年分の全球エアロゾル再解析データセットの作成に成功したと発表した。

2013年12月26日18時(世界標準時)のエアロゾル光学的厚さ(全球、左図)と、2014年1月31日0時(世界標準時)の地上付近のPM2.5重量濃度分布(東アジア拡大、右図)の例。(出所:気象庁気象研究所プレスリリース)

同研究は、気象庁気象研究所と九州大学応用力学研究所の弓本桂也准教授らの研究グループによるもので、同研究成果は、日本時間9月4日に欧州地球科学連合の専門誌「Geoscientific Model Development」に掲載され、欧州地球科学連合のHighlighted articleに選出された。

黄砂やPM2.5などに代表される大気中を浮遊する粒子状物質(エアロゾル)は、地球の放射収支や雲降水過程に作用して気候変動や天候に大きな影響を及ぼす他、呼吸器系疾患など健康へのリスクが議論されている。エアロゾルの気候・健康影響を精度よく評価するためには、エアロゾルの時空間変動を正確に再現することが不可欠だが、エアロゾルの発生源は多岐にわたること、濃度分布の変動が大きいことなどから、エアロゾルの時空間分布を数値モデルおよび観測データ単独で精度よく再現することは難しく、気候や健康影響などの正確な評価を困難にしていた。

同研究グループでは、全球エアロゾル輸送モデル(MASINGAR)に新たにデータ同化技術を導入し、衛星観測から得られたエアロゾル分布の情報と数値シミュレーションを融合することで、精度が高く欠損の無い全球エアロゾル再解析データセットの開発を行った。また、地上の観測データと比べることで、作成したデータセットが、従来のモデルのみを使った研究に比べ、エアロゾルの時空間変動の再現性が大幅に向上していると確認されたという。開発されたデータセットには、2011年1月1日~2015年12月31日のエアロゾルの情報が、緯度経度約1度間隔のグリッドボックス上に6時間間隔でデジタルデータとして整備されており、任意の場所・時刻のエアロゾル濃度、エアロゾル光学的厚さ、沈着量などを知ることが出来る。

同データセットは、Webページを通じて研究コミュニティーに広く公開される予定で、気候・天候影響への定量的な評価、疫学研究を通じた健康影響調査、海洋生物循環に代表される生態影響の評価など、エアロゾルに関する様々な研究に広く活用され、各分野の問題点の解決と精度向上をもたらすことが期待される。また、同研究で開発されたデータ同化技術は、気象庁が行う黄砂予測にも適用される予定で、視程の悪化による交通機関への影響や、洗濯物や車の汚れなど、日々の生活に影響を与える黄砂の予測精度向上が期待されるということだ。