北海道大学(北大)は9月7日、根を切ると植物の成長と形作りに必要な植物ホルモンであるオーキシンの量が増えることを発見し、オーキシン合成遺伝子「YUCCA9」を特定したと発表した。

同成果は、北海道大学大学院理学研究院の綿引雅昭 准教授らの研究グループによるもの。詳細は日本の学術誌「Plant and Cell Physiology」に掲載された。

左から、無処理のシロイヌナズナと生育途中で主根を切ったシロイヌナズナの様子および側根数、側根の成長速度のグラフ(出所:北海道大学Webサイト)

園芸では、根の一部を切断する「根切り」がよく知られてる。根切りは新しい根を人為的に発生させ、水や養分の吸収を促響してしまう緊急事態であり、根を切られた植物はできるだけ早く根を再進させると考えられている。植物にとって根の障害は脱水という形で直ちに地上部に影生しようとする性質があるため、園芸ではこの性質を利用して植物を増やしたり、鉢での栽培を行っている。

これまで根切りについて、農学的見地から効率的な方法が研究されてきたが、土の中で目視できない根の傷害応答については注目されてこなかった。根は自発的に枝分かれして新たな根を作るため、自発的に作られる側根と傷害によって誘導される側根の区別が難しく、それが根の再生に関する研究の課題となっており、ほとんど研究が行われてこなかったという。

今回の研究では、育成室を使い、アブラナ科モデル植物であるすべての遺伝情報が明らかになっており、根や植物ホルモンに関する突然変異体も豊富であるシロイヌナズナでも根切りによって根の再生が起こることを確認。さらに、オーキシンの合成と極性輸送に関する阻害剤を使い、根切り応答に関する遺伝子を特定した。

その結果、根を切ると新しい根が作られると同時に、すでにある根の成長も促進されることがわかったという。また、根の再生には、11種類あるオーキシン合成遺伝子「YUCCA」のうち「YUCCA9」が特に重要な働きを示すことを明らかにした。これらから、根切りが根のオーキシン量を増やしていると予想されたため、さらなる共同研究を行い、根切りによって実際に根のオーキシン量が増加していることを確認した。

なお、今回の成果について同研究グループでは、オーキシン合成が根の再生に決定的な役割を担っていることが証明され、根の再生においてもオーキシンの極性輸送が必要であることを明らかにするものである。また、今後、「根切り」による傷害応答と根の再生のメカニズムは、多くの植物が共有している性質のため、このメカニズムを応用することで、雑草を抜いても根が再生しない状況を作り出す、もしくは根に障害が起こってもさらに根の再生を促進させるなど、園芸や農業上の応用が期待されるとコメントしている。