岩手大学は、同大学農学部の宮崎雅雄氏、山下哲郎氏らの研究グループが、においを介したネコの縄張り行動のメカニズムを研究し、ネコの尿抽出物を嗅がせたネコは、イヌのように自分の尿を残すことなく、その場を立ち去ることを発見したことを発表した。この成果は8月5日、Elseviaのオンラインジャーナル「Applied Animal Behaviour Science」で公開された。

ネコの尿抽出物に対する野良猫の反応(出所:ニュースリリース※PDF)

ネコの飼育頭数の増加に伴い、放し飼いネコや野良ネコによる児童公園や住宅街の糞尿被害が大きな社会問題になっている。ネコの嫌がるにおいで開発された忌避剤などは多数販売されているものの、効果に個体差があるためさらなる技術開発が求められている。

研究グループは、ネコの縄張り内に別個体のネコの尿を提示すると、近くを通りかかったネコが尿のにおいを嗅ぎつけ、そのにおいを丹念に嗅ぎ、フレーメンと呼ばれる行動を提示したあと、イヌのように自分の尿をオーバーマーキングせずに、そのまま立ち去ることを見出し、これに着目した。

ネコの尿を野外に提示していた場合、その尿が腐敗して強烈なアンモニア臭が発生することがあるが、そういった尿を提示しても積極的ににおい嗅ぎをしなかったため、尿からアンモニアの原料となる尿素を除去した尿抽出物を調製し、尿と同様の効力があるかどうかを調べた。有機溶媒を用いて尿を尿素が含まれる水層と有機溶媒層にわけたところ、有機溶媒層にネコ特有な硫黄臭の原因物質を含む、様々なにおい物質が濃縮されていたという。

また、野良猫による糞尿被害を受けている民家の庭先にこの尿抽出物を提示し、被害の低減効果を調べた結果、すべての場所において夜間に野良猫が出現したが、野良猫はネコ尿抽出物を嗅いだ後に糞尿をすることなく、そのまま立ち去ったという。さらに、一度においを嗅いで立ち去った野良猫は、同日あるいは数日後にも同じ場所に現れることがわかり、人工的な尿抽出物を提示してもネコの縄張りを攪乱するようなことがないことも判明した。これらの結果から、ネコの尿抽出物は「ネコを誘引する効果」と「糞尿を阻止する効果」のふたつを併せ持つことがわかった。

現在主流となっているネコの忌避剤や撃退装置は「ネコが嫌がるものを提示して追い払う」というコンセプトで開発されている。一方、この研究成果で期待できるのは、ネコの縄張り行動の基本原理に基づき、敷地内に入ってきたネコに尿抽出物を嗅がせて他のネコがそばにいる可能性を勘違いさせることで、悪臭を放つネコの糞尿被害を防止することである。

今後は、尿抽出物の提示量による効果の差や安定性、作用持続時間などを詳細に調べながら、商品開発の視野にいれた研究に発展させたいと説明している。