東京大学(東大)は8月5日、フォノニック結晶と呼ばれる人工結晶構造の秩序を制御することで、熱本来の「波動性」を利用して熱伝導を制御できることを実証したと発表した。

同成果は、東京大学生産技術研究所 野村政宏准教授らの研究グループによるもので、8月4日付の米国科学誌「Science Advances」オンライン版に掲載された。

熱伝導は熱の運び手であるフォノンの移動で説明され、ほぼすべての熱伝導現象は粒子的な描像で説明されてきた。一方で、熱の本来の姿は原子などの振動であり波動性を持っているため、可干渉性が保たれた周期的な構造中では干渉を起こし、熱伝導が変化する可能性が指摘されていた。しかし、従来の電気的な測定手法では、波動性に起因する干渉効果と波動性がなくても生じる散乱効果のそれぞれを切り分けて観測することは困難であった。

そこで今回、同研究グループは、光を使って非接触で熱伝導計測を高精度に行える高速測定システムを開発。シリコン薄膜に周期的に円孔をあけた構造をもつフォノニック結晶と、その周期性をわざと乱した構造の熱伝導を高精度で比較した。これらの構造では、円孔の半径と数を同じにすることで、粒子的描像で説明できる散乱の効果をほぼ同一に保ったまま、波動性に起因する熱伝導の低減をうまく抽出して観測できるように工夫されている。

この結果、周期性を少し乱すだけで熱伝導が変化することが明らかになり、熱の波動性を利用して熱伝導を制御できることが実証された。今回の実験は液体ヘリウムを用いて3.7Kで行われたものだが、今後、より微細な構造を用いることで、室温においても同様の効果が見込まれるという。

同研究グループは今回の成果について、熱の波動性を積極利用したフォノンエンジニアリングによって高度な熱伝導制御技術の実現が期待されると説明している。

今回の研究に用いられたナノ構造の熱伝導計測用光学システムと測定原理 (出所:科学技術振興機構Webサイト)