東京農工大学(農工大)は8月1日、頭部打撲による脳損傷、血栓の発生や人工弁近傍における血管内部の急激な圧力変動、バルブの急開閉による水道管の破裂などの一因となるキャビテーション(急減圧による気泡の発生・崩壊現象)の普遍的な発生条件を明らかにしたと発表した。

同成果は、東京農工大学大学院工学研究院先端機械システム部門の田川義之 准教授、同大学院 博士後期課程在籍の木山景仁さん、ユタ州立大学のTadd T. Truscott 准教授、Zhao Pan 博士、Randy Hurd氏、ブリガムヤング大学 Scott L. Thomson 准教授、Naval Undersea Warfare Center David J. Daily 博士によるもの。詳細は米国の学術誌「Proceedings of the National Academy of Science of the United States of America」に掲載された。

液体を充填した容器に衝撃を加えると、液体が急減圧されることにより、キャビテーションと呼ばれる発泡現象が生じ、気泡は発泡直後に激しく潰れるため、その衝撃で容器の破壊が引き起こされてしまう。このようなキャビテーションによる破壊は、水道管や血管の損傷などの原因の1つとして知られ、中身の入ったガラス瓶の口を手で強く叩くことでも、この効果を実感することができる。このような破壊現象を防ぐためには、キャビテーションの発生条件を正確に予測することが不可欠であるが、その方程式はこれまで解明されておらず、同大学では、10μsごとに鮮明な連続画像を取得できるハイスピードカメラを用いた実験を重ね、この課題に取り組んできた。

ハイスピードカメラによる撮影結果(ガラス瓶を上から叩いた場合)。容器に加えられた衝撃では、容器は破壊されない(左から1枚目)。液中にキャビテーション気泡が生じ(同2枚目)、崩壊すると同時に、容器壁面に亀裂が入り(同4枚目)、破壊される(同5枚目)(出所:東京農工大学Webサイト)

今回の研究では、液体が入った容器に加わる衝撃力を、液体にかかる加速度と捉え直すことで、液体中の圧力低下量を理論的に導き、液体の状態(飽和蒸気圧)と比較することで、キャビテーション気泡の発生条件を記述する方程式を提案。ハイスピードカメラを用い、キャビテーション気泡の発生条件を、日本と米国の研究グループがそれぞれ異なる条件で調べ、提案した方程式との比較検討を行った。

その結果、今回提案した方程式は、衝撃力(加速度)の大きさ・液体の種類・液体の充填量・容器の材質、に対して幅広く対応可能な、普遍的なものであることが判明。

今回の成果について同研究グループでは、ガラス容器の破壊という身近な現象への理解を深めるだけでなく、類似の原理によって引き起こされる、流体機械や、頭部打撲による脳損傷、血栓の発生や人工弁近傍における血管内部の急激な圧力変動といった、人体の損傷事故を防ぐ助けになると説明しており、今後、頭部打撲による安全なヘルメットや人工弁などの医工学機器開発に応用が期待されるものになるとしている。