東京大学は、同大学生産技術研究所の田中肇教授、鶴沢英世氏、ジョン・ルッソ特任助教(研究当時、現ブリストル大学講師)、リヨン大学のマチュー・レオクマック博士の研究グループが、結晶がネットワーク状につながって形成された結晶ゲルの形成の機構を、その全過程を3次元共焦点顕微鏡により一粒子レベル分解能でリアルタイム観察することにより解明したことを発表した。この成果は7月31日、英科学誌「Nature Materials」のオンライン速報版で公開された。

結晶ゲルを構成する個々のコロイド粒子を滑らかな関数(ガウス場)で置き換えることで、ネットワーク構造の特徴が見やすくなっている(出所:東京大学ニュースリリース)

通常、コロイドゲルはコロイド粒子がランダムな構造のまま凝集して固まった状態だが、ある条件下では結晶がつながりあったゲル状態が形成されることが知られていた。しかし、どのような条件下、どのような機構でそのような特異な状態が実現されるのかは未解明であった。

研究グループは、この動的な過程を直接観察した結果、まずコロイド粒子の濃度が高い液体相と濃度の低い気体相に相分離する過程で、液体相のネットワークが形成され、その中に結晶核が形成されること、そして、それが成長して液体ネットワーク構造の表面に達し、気体相と接触すると液体相と固体相の飽和蒸気圧差のために液体相が蒸発し、同時に気体相のコロイド粒子が結晶表面に凝結するという過程が重要となることを発見した。

この過程は、過冷却水と氷(氷晶)の混合体を含む雲において、氷晶が急速に成長する過程(ベルゲロン過程)と同じであり、冷たい雨の形成の素過程を微視的レベルで観察した初めての例と言える。こうして形成された結晶ゲルは、上記のような形成過程を反映して滑らかな結晶表面を持っており、また、多孔体を形成し表面積が極めて大きいため、もし金属原子などでこのような構造が形成されれば、触媒やセンサーなどへの応用上のインパクトも大きいと考えられる。

また、研究グループは、どのような条件を満たせば、この過程を実現できるかについての物理的指針も与えた。このような結晶からなる多孔体はこれまで、2成分からなる系を相分離させ固化したのち、ひとつの相を溶かして取り除くという2段階の過程で形成されていたが、今回提案された方法を用いることぇ、一段階で多孔体を形成できる可能性があり、今後の応用が期待されるとしている。