研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)は、東京大学大学院工学系研究科の小野田実真氏、玉手亮多氏、吉田亮教授、同大学物性研究所の柴山充弘教授、NIMSの上木岳士氏、東京大学物性研究所の柴山充弘教授らの共同研究グループが、流動性の変化をひとりでに繰り返す、アメーバのような液体の人工合成に成功したことを発表した。この研究成果は7月13日、英国の科学雑誌「Nature Communications」オンライン速報版に公開された。

高分子溶液がゾル-ゲル振動する様子の直接観測(出所:NIMS Webサイト)

生き物らしい「ソフトでしなやかな動き」は、ナノメートルオーダーの要素が複雑に相互作用を及ぼし合うことで実現されているが、こうした自律挙動を人工的に再現するのは極めて難しく、これまで報告はほとんどなかった。

今回、共同研究グループは、人工合成された高分子が化学反応を伴いながら「集合と分散を自ら繰り返す」仕組みを考案し、外から電気・光・熱などを一切加えることなく、ゾル(液体)状態とゲル(擬固体)状態をひとりでに繰り返すアメーバのような液体の人工的な合成に初めて成功した。

周期的なゾル-ゲル変化は、生体内では細胞分裂・傷の修復・癌細胞の転移・アメーバの運動等において頻繁に観察され、アクチンという生体高分子が「集合と分散を自ら繰り返す」ことで実現されている。

すなわち、今回の成果は、アクチンの持つ機能を合成高分子がまねて、生体内で見られる生命挙動の一部を人工的に再現したと言える。

研究グループはこの成果に関して、将来的にはアメーバの運動機構をはじめ、生命の自律性を考察する糸口になると考えられるとともに、SF映画で描かれてきたような、生き物のように自律性をもって動く新たなソフトマシンの実現に繋がると期待されるとしている。