分子科学研究所(分子研)は6月28日、大型放射光施設SPring-8で硬X線を用いた準大気圧光電子分光装置を改良し、完全大気圧下での光電子分光測定に成功したと発表した。

同成果は、分子科学研究所 高木康多助教、横山利彦教授、電気通信大学燃料電池イノベーション研究センター 岩澤康裕教授、名古屋大学物質科学国際研究センター 唯美津木教授、高輝度光科学研究センター 宇留賀朋哉研究員らの研究グループによるもので、6月27日付けの日本応用物理学会誌「Applied Physics Express」オンライン版に掲載された。

光電子分光法とは、測定対象の物質に電磁波をあて、光電効果により放出される光電子のエネルギーを測定することにより、その物質の状態を観測する手法。これまでの光電子分光測定は、高真空下にある試料しか測定できず、高真空下の反応に対して得られた知見と実際の大気圧下での反応機構とのあいだにある乖離が問題となっていた。

近年、この問題を解決するためにガス雰囲気下での測定を可能とする準大気圧光電子分光と呼ばれる装置が開発されたが、一般的な準大気圧光電子分光装置における測定ガス圧の上限は5000Pa程度であり、これまで報告されている世界最高性能の装置でも1万5000Paが上限であった。この圧力は大気圧の1/7倍程度であり、より高いガス圧下で動作する光電子分光装置の開発が求められていた。

今回、同研究グループは、SPring-8の電通大/NEDO「先端触媒構造反応リアルタイム計測ビームライン」(BL36XU)内に設置された準大気圧光電子分光装置において、光電子の運動エネルギーを高くしたり、光電子の取り込み口(アパーチャー)と試料との距離を短くしたりするなど測定ガス圧の上限を大幅に引き上げるための装置改良を行い、完全大気圧下での金薄膜の光電子分光測定に成功した。

今回の研究では直径30μmのアパーチャー(b、c)をもった、分光器の先端に取り付けるフロントコーン(a)を作製。フロントコーンをBL36XUに設置された準大気圧光電子分光装置に取り付け、ガス雰囲気下の光電子分光測定を行った (出所:分子研Webサイト)

同研究グループは、同装置について、従来の光電子分光測定などで得られた知見を大気圧下での反応に正確に適用する際に役立つのと同時に、燃料電池や触媒材料の開発のための強力なツールになることが期待されると説明している。