大阪大学産業科学研究所(阪大ISIR)は5月30日、黒リン、金ナノ粒子、チタン酸ランタンの3つの材料からなる可視光・近赤外光応答型光触媒を開発し、水から水素の高効率生成に成功したと発表した。
同成果は、阪大ISIR 真嶋哲朗教授らの研究グループによるもので、1月12日日付の欧州科学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。
太陽光と水から水素を効率的に製造できれば、現在の化石燃料社会から水素をエネルギー源とする水素社会への移行が現実のものとなるが、現在の太陽光エネルギーのコストは化石燃料に比較して高価なため、十分に広まっていない。
そこで、太陽光エネルギーを利用して水素を高効率に製造できる光触媒の開発が望まれている。しかし、従来の光触媒では、太陽光の3~4%にすぎない紫外光を利用するため、水から水素への太陽光エネルギー変換効率が低いという課題があった。
今回、同研究グループは、紫外・可視光だけでなく近赤外光にも強い吸収をもつ層状の黒リンと、層状のチタン酸ランタン(La2Ti2O7)を数層からなる超薄膜とし、これらと数nmサイズの可視光にも吸収をもつ金ナノ粒子との3成分からなる複合体を合成した。
この複合体においては、黒リンが可視光・近赤外光に応答する光増感剤として働き、また、金ナノ粒子が可視光に応答する光増感剤として働き、励起電子がチタン酸ランタンに移動し、プロトンの還元により水からの水素生成が効率よく起こる。
同研究グループは、今回の成果について、水素社会において根幹となる、太陽光による水素製造の実現へとつながるものと説明している。