ケンブリッジ大学とウォーリック大学の研究チームは、直径がテルル原子1個分という世界最細の金属ナノワイヤを作製したと発表した。半導体デバイスなど電子部品の微細化に利用できる技術であるとしている。研究論文は、米国化学会発行のナノテク専門誌「ACS Nano」に掲載された。

単層CNT内部に形成された一次元のテルルナノワイヤのイメージ(出所:ケンブリッジ大学)

今回のテルルナノワイヤは、単層カーボンナノチューブ(CNT)の内側に形成した。CNTの直径は0.7~1.1nmとした。通常のテルルは半導体であるが、CNT内部のような極端に狭い空間内に閉じ込めることで、テルル原子1個ずつが一次元的につながって金属的な性質を示すようになるという。

テルル原子を一次元的に並べても、通常は構造が安定せず、原子振動などの影響ですぐにバラバラに崩壊してしまう。CNTで覆うことによって、テルルナノワイヤが安定し、崩壊を防ぐことができる。

CNT内部に閉じ込めることによって、テルルの性質には大きな変化が起こるが、このとき、CNT自体には特に変化が生じていないことも重要である。通常、ナノレベルでの接触界面では強い反応が生じることが多いが、CNTは化学的に不活性であるため、テルルとCNTの反応がナノワイヤの性質に影響を及ぼす心配がない。

CNT内部にテルルを注入した場合のこのような挙動については、これまでコンピュータシミュレーションによって予測されていた。今回の研究では実際にナノワイヤを形成し、理論予測が正しいことを確認したことになる。CNTの直径を変えることによって、テルルの性質が変化することもわかった。金属状態から絶縁体の状態までの遷移挙動が、CNT直径の関数になっているという。

論文によると、テルルナノワイヤの作製手法は、単層CNTをチューブ型の加熱炉内にて750K程度で50分間熱処理し、重量を100mgから60mgに減らす。こうして前処理した単層CNT60mgとテルル100mgを昇華用アンプルに入れ、6日間750Kの真空加熱処理を加えると、CNT内部にテルルが入りこんで一次元状に結晶化する。