日立製作所(以下、日立)とHIROTSUバイオサイエンス(以下、ヒロツバイオ)は18日、線虫によるがん検査の実用化に向けた共同研究開発契約を締結したことを発表した。

ヒロツバイオの線虫がん検査法「N-NOSE」の実用化に向けて、日立が新規開発した線虫がん検査自動解析技術を活用した検査の自動化について、共同研究を進める。

ヒロツバイオ 代表取締役 広津崇亮氏(左)、日立 研究開発グループ 基礎研究センタ 久野範人氏(右)

ヒロツバイオは九州大学発のベンチャー企業。2015年に論文発表した線虫を用いるがん検査法「N-NOSE(エヌノーズ)」の実用化をめざしている。この検査法は被験者の尿を試料として用いるもので、がん患者の尿には近づくが、健常者の尿からは離れていく線虫の特性(化学走性)によってがんの検診を行うものだ。

線虫を用いるがん検査法「N-NOSE」

同検査法は簡便で安価な方法でありながら、多種類のがんを高精度・早期に発見可能という特徴を持つ。画像診断では判読しにくい臓器のがんも検出でき、早期がんから発せられるごくわずかな物質を感知可能であるため、腫瘍マーカーでは検知が難しいステージ0~1のがんにも反応するという。

現状、がん検診では対象部位ごとにエコーやMRI、マンモグラフィなどの精密検査を受診するのが主流だが、精密検査の費用が高いこと、早期がんは画像に反映されづらいなどの要因から、がん検診の受診率は3割弱~4割(2013年・厚生労働省「国民生活基礎調査」より)と低い水準となっている。

「N-NOSE」のメリット

同検査法の安価・高感度という特徴から、ヒロツバイオ 代表取締役 広津崇亮氏は「第一選択のがん検査として『N-NOSE』を実用化したい」とコメント。まずは「N-NOSE」によるがん検査を受け、それが陽性となった人に対して精密検査を促すフローを提供することで、受診率の向上を見込む。

人の手で行っている検査の自動化をめざす

現状、「N-NOSE」は人の手によって検査を行っているため、1人の検査員が1日に検査可能な人数は3~4人程度となっている。今後世界市場で展開する上でさらに検査の高速化を図るため、今回日立との共同で、自動解析装置による検査の自動化に関する研究を進めていく運びとなった。

現在のフローの大半を、ふたつのシステムで自動化する

今回発表されたのは、尿検体と線虫の分注を行う「自動分注システム」と、線虫の動きを撮影して検査結果を導く「自動撮像・画像解析システム」の2件。線虫の培養以後のフローを機械化する想定だ。

日立 研究開発グループ 基礎研究センタ 久野範人氏は、「現状のスループットは人力検査とほぼ同等程度。そのため、共同研究のメインターゲットは、作業の高速化にある」と語った。いずれのシステムも、1度に4プレートを処理することが可能となっている。

「自動撮像・画像解析システム」では、小さい線虫を機械が検出・計数するのは難しいため、プレートをブロックに分割して、それぞれの区画の輝度を指標としている。ブロック内に線虫が多いと明るく、少ないと暗く見えるため、デジタル化したパターンで計測が可能となった。

線虫の計測は現状ヒロツバイオ独自手法で検査員が手がけているが、このシステムでは画像の輝度を指標に計測する

連続撮影で線虫の移動を判別可能になった。その結果、健常者、患者双方で線虫の初期の動きが速いほど検査の結果が良好である傾向が明らかになったという

「自動撮像・画像解析システム」

プレートの上にカメラが移動し、ひとつずつ順に撮影する

なお、「N-NOSE」は2019年10月の完成を目指している。自由診療で、病院を介した状態での実用化を想定しており、(受診者が支払う)検査費は1回数千円程度となるということだ。

今後の予定