金沢大学は、同大学 医薬保健研究域医学系の三枝理博教授、長谷川恵美前助教(現筑波大学)らの研究グループが、気持ちが高ぶった際に突然全身の力が抜け、その場に倒れこんでしまう「情動脱力発作」を防ぐ神経経路を明らかにした。
同研究成果は日本時間 2017年4月11日、米国の科学雑誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版に掲載された。
「情動脱力発作」は、睡眠障害「ナルコレプシー」の主徴のひとつ。オレキシン神経が欠損すると、ナルコレプシーの主な症状として「日中の耐えがたい強い眠気」、そして「情動脱力発作」が発症する。以前、同研究グループは、オレキシン神経からの情報を受け取ってナルコレプシーの症状を抑制する2種類の神経を解明した。今回は、その2種類の神経うちセロトニン神経が、情動を司る扁桃体の活動を弱めることで、情動脱力発作の発生を防ぐことを明らかにした。
情動脱力発作は、急激な感情の動き、特に大笑いするなどの良い意味での感情的興奮が生じた時に起こる。今回の研究により、セロトニン神経は筋肉の脱力を直接抑えるのではなく、感情的興奮を伝える扁桃体の活動を弱めて適度に調節することで、情動脱力発作を防ぐことが判明した。
ナルコレプシーモデルマウスで光遺伝学を用いて、扁桃体に伸ばしているセロトニン神経線維だけを刺激してセロトニンの放出を人工的に高めたところ、情動脱力発作がほぼ完全に抑えられた。レム睡眠を調節する他の脳領域で同様の操作を行っても、情動脱力発作は抑制されなかった。また、扁桃体の活動を人為的に直接弱めると情動脱力発作が抑えられ、逆に活動を高めると発作の頻度が増加した。
実際に、オレキシン神経を失っているナルコレプシー患者では、面白い写真を見た時に扁桃体が過剰に反応することが知られている。このたび「オレキシン神経→背側縫線核・セロトニン神経→扁桃体」という、情動脱力発作を抑制する神経経路が明らかになったことで、ナルコレプシー発症メカニズムの全貌の理解に大きく近づき、また情動脱力発作の新たな治療法の開発にもつながるとも期待される。