金沢大学は、突然眠り込んでしまう睡眠障害「ナルコレプシー」の症状を抑制する2つの神経回路を明らかにしたほか、同神経回路を人工化合物の投与により人為的に活性化することで、ナルコレプシーの症状を抑えることができることを確認したと発表した。

同成果は、同大 医薬保健研究域医学系の三枝理博 准教授、同大大学院医薬保健学総合研究科 医学博士課程大学院生の長谷川恵美氏(日本学術振興会特別研究員)、同大 医薬保健研究域医学系の櫻井武 教授らによるもの。詳細は米国の科学雑誌「Journal of Clinical Investigation」オンライン版に掲載された。

ヒトはその人生のうち約1/3を眠って過ごす。睡眠は、心身の健康を維持したり、記憶の強化を図ったりするために必要なものだが、不適切なタイミングで睡眠と覚醒の切り替えが生じる睡眠障害「ナルコレプシー」が発症する場合がある。ナルコレプシーは、脳の睡眠システムと覚醒システムを切り替えるために必要がオレキシンがなくなることで発症することが知られており、これにより気絶するように眠ってしまう「睡眠発作」や、気持ちが高ぶった際に全身の力が抜けて倒れ込むが意識があることが多い「情動性脱力発作」などが起こることとなる。

今回の研究では、脳の睡眠と覚醒の切り替えを制御するオレキシン産生神経細胞から放出されたオレキシンを受け取り、覚醒を安定化させる2つの神経回路が発見された。

具体的な実験手法としては、オレキシンを受け取る受容体を失いナルコレプシーの症状を示すマウスに対し、青斑核と呼ばれる脳領域にあるノルアドレナリン産生神経細胞のみでオレキシン受容体を回復させたところ、睡眠発作が減ることが確認されたほか、背側縫線核と呼ばれる別の脳領域にあるセロトニン産生神経細胞のみでオレキシン受容体を回復させたところ、情動性脱力発作が殆ど起こらなくなることを確認したという。

また、人工化合物「CNO」のみによって活性化される人工受容体を青斑核・ノルアドレナリン産生神経細胞、背側縫線核・セロトニン産生神経細胞それぞれに導入し、CNOを投与してこれらの神経細胞を人為的に活性化することで、それぞれ睡眠発作、情動性脱力発作を減らすことができることも確認したという。ちなみに、人工受容体が無い場合、CNOは生体に何の影響も及ぼさないという。

今回の結果について研究グループでは、ナルコレプシーのみならず、不眠症などさまざまな睡眠障害の対処に応用できると期待されるとコメントするほか、人工化合物-人工受容体を用いてナルコレプシーを抑制できたことから、有効性・安全性が保証された人工化合物-人工受容体のペアを開発し、その人工受容体の遺伝子を必要最小限の神経細胞に導入して人工受容体をつくらせ、その上で人工化合物を服用して当該神経細胞を適切なタイミングで活性化することで症状を抑えるといった、新たなコンせプトによる遺伝子治療法の開発にも結び付くことが期待できるとしており、これにより莫大な費用と時間のかかる創薬プロセスを経ず、より多くの疾患に治療方法を提供できる可能性がでてきたとしている。

ナルコレプシーのイメージ