慶應義塾大学(慶大)は3月28日、自律神経である迷走神経に骨量を減らす作用があること、タバコの成分であるニコチンが骨量を減らす作用を有することを、マウスを用いた実験によって明らかにしたと発表した。
同成果は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室 宮本健史特任准教授らの研究グループによるもので、3月28日付けの英国科学誌「Scientific Reports」に掲載された。
骨は性ホルモンなど、さまざまな要素の影響を受けることが知られている。一方で、自律神経の副交感神経である迷走神経は脳や心臓などを制御していることは知られているが、骨との関連はこれまで明らかになっていなかった。また、喫煙が骨粗鬆症の誘引になることが古くから知られているが、そのメカニズムは不明であった。
同研究グループは今回、ニコチンならびに副交感神経の神経伝達物質として機能するアセチルコリン受容体アルファ7(α7nAchR)を欠損したマウスでは、野生型マウスに比べて骨量が有意に増加していることを見出した。また、α7nAchR欠損マウスは骨に存在する破骨細胞の数が有意に減少していることがわかった。これは、α7nAchRが通常の機能として破骨細胞数を増加させ、骨量を減少させる役割を発揮していることを示した結果であるといえる。
さらに、α7nAchR欠損マウスは野生型マウスに比べて破骨細胞を増やすタンパク質であるRANKLの血清中の濃度が有意に減少しており、また破骨細胞数を減らすタンパク質であるosteoprotegerin(OPG)の血清濃度は逆に有意に増加していることがわかった。
実際に、野生型マウスの迷走神経機能を遮断すると、血清中のRANKL濃度の減少とOPG濃度の増加を観察。また、逆に野生型マウスへニコチンを投与することによりα7nAchRを刺激すると、RANKL濃度の増加とOPG濃度の減少が誘導されたという。この結果は、迷走神経およびニコチンが骨を吸収する破骨細胞を増加させ、骨の量を減らす作用があることを示しているといえる。
同研究グループは今回の成果について、自律神経が骨をコントロールする仕組みやその意義の解明、また喫煙者を骨粗鬆症や骨折から守る方法の開発へと発展していくことが期待されるとコメントしている。