米国の宇宙企業スペースXは3月16日、通信衛星「エコースターXXIII」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げに成功した。

ファルコン9の打ち上げで恒例となっているロケットの第1段機体の着地、回収は、今回は打ち上げる衛星の質量が大きかったことから実施されなかった。

一方、同社は今月末に打ち上げる次のファルコン9で、昨年回収した機体の再使用に挑む。

通信衛星「エコースターXXIII」を搭載した「ファルコン9」ロケット (C) SpaceX

通信衛星「エコースターXXIII」を搭載した「ファルコン9」ロケットの打ち上げ (C) SpaceX

ロケットは日本時間3月16日15時00分(米東部夏時間3月16日2時00分)、フロリダ州にあるケープカナベラル空軍ステーションの第39A発射台から離昇した。ロケットは第1段やフェアリングを分離しつつ順調に飛行し、第2段の2回に分けた燃焼ののち、打ち上げから約34分後に衛星を分離し、所定の軌道に投入した。

エコースターXXIIIは、衛星通信大手の米エコースターが運用する衛星で、スペース・システムズ/ロラールが製造した。西経45度の静止軌道から、主にブラジルに向けて衛星放送サービスを担う。打ち上げ時の質量は約5600kgで、設計寿命は15年以上が予定されている。

スペース・システムズ/ロラールによると、打ち上げ語、太陽電池パドルの展開などにも成功し、現在衛星の状態は正常だという。

エコースターXXIIIは現在、遠地点高度3万5903km、近地点高度633km、軌道傾斜角22.43の静止トランスファー軌道に乗っている。このあと衛星側のスラスターを使い、最終的な目的地である静止軌道に乗り移る。

エコースターXXIIIの想像図 (C) SS/L

エコースターXXIII分離の瞬間 (C) SpaceX

脚なしファルコン9による使い捨て打ち上げ

スペースXでは、ファルコン9ロケットの打ち上げコストを劇的に下げることを目的に、機体を飛行機のように何度も再使用することを目指している。

それに向け、最近のファルコン9の打ち上げでは、第1段機体を陸地や海上の船に着地させ、回収することが恒例となっているが、今回は衛星の質量が大きく、ロケットの能力をフルに使う必要があったため実施されなかった。また、着陸脚や安定翼、スラスターなど、再使用に必要な部品もすべて取り外して軽量化した、完全に使い捨てでの打ち上げとなった。

使い捨て前提での打ち上げは、2015年4月27日の打ち上げ以来、約2年ぶり。現行の「ファルコン9フル・スラスト」型の機体では初となった。

スペースXは、回収が可能な上限について明らかにしていない。ただ、今回のような静止トランスファー軌道への打ち上げの場合、エコースターの質量が約5600kgであったこと、また以前、質量約5250kgの衛星を打ち上げる際に再使用が試みられたことから、5400kg前後に境目があるものと考えられる。

現在スペースXでは、エンジンの推力を上げるなどし、現在のファルコン9からさらに打ち上げ能力を強化した「ファルコン9 ブロック5」の開発を進めている。イーロン・マスク氏によると、ファルコン9 ブロック5の運用が始まれば、今回のエコースターXXIIIのような、これまでは回収が難しかった重い衛星の打ち上げでも、回収・再使用ができるようになるという。

また、これまでのファルコン9にとって回収や再使用はあくまで試験的なものだったが、このブロック5からは標準仕様となり、再使用を行うことを前提とした設計になっているという。

ファルコン9 ブロック5の初の打ち上げは、今年末に予定されている。

今回は衛星が重いため、着陸脚や安定翼、スラスターなどを取り払って軽量化し、ロケットの打ち上げ能力をフルに発揮できるようにした (C) SpaceX

今月末には初の再使用打ち上げ

今回の打ち上げでは、機体の回収はできなかったものの、スペースXはすでに、2015年から現在までの間に、8機のロケットの回収に成功している。これまでは、打ち上げたロケットを回収する試験のみが行われてきたが、いよいよ回収したロケットの再使用打ち上げが始まろうとしている。

スペースXは回収した8機のうち、1機は同社の施設に展示しており、また少なくとももう1機は、再使用しないことを前提に、地上での徹底した試験にかけられている。

そして今年1月末には、2016年4月にドラゴン補給船運用8号機を打ち上げたのち、回収に成功した機体の燃焼試験にも成功。再使用打ち上げに向けた準備が着々と整いつつある。

3月17日現在、最初の再使用打ち上げは日本時間3月28日の5時58分~9時58分の間に予定されている。使われるのは、前述したドラゴンを打ち上げ、1月に燃焼試験にも成功した機体で、また初の再使用打ち上げながら、ルクセンブルクにある衛星通信会社SESの通信衛星「SES-10」が搭載される。

ロケットの再使用には、"中古"であることによる信頼性の低下が懸念されがちだが、SESはかねてより、スペースXによる「ロケットの再使用によるコストダウン」というアプローチを熱心に支持しており、「再使用打ち上げの1号機の顧客になりたい」と表明していたほどだった。

実際に再使用打ち上げが始まれば、本当にロケットの再使用でコスト削減が達成できるのか、そして信頼性への影響などが出ないのかどうかといった答えがわかることになる。またファルコン9 ブロック5の運用が始まれば、本格的に機体を再使用する流れができることになろう。

なお、この再使用打ち上げで、ふたたびロケットを回収し、再々打ち上げを行うのかどうかは明らかにされていない。SES-10の質量は約5300kgとされるため、現在のファルコン9の性能では難しいところかもしれない。

今年1月末に行われた、昨年回収したファルコン9の第1段機体の燃焼試験の様子。この機体が、3月28日に予定されているファルコン9初の再使用打ち上げで使われる予定 (C) SpaceX

参考

ECHOSTAR XXIII MISSION | SpaceX
ECHOSTAR XXIII MISSION | SpaceX
EchoStar XXIII Mission
SSL-Built, Highly Flexible Satellite For EchoStar Begins Post-Launch Maneuvers According to Plan
TV broadcast satellite launched aboard Falcon 9 rocket - Spaceflight Now