京都大学(京大)などは3月10日、2つの電流値を持つ人工イオンチャネルの合成に成功したと発表した。

同成果は、京都大学物質-細胞統合システム拠点 古川修平准教授、北川進教授、東京農工大学 川野竜司特任准教授、神奈川科学技術アカデミー 竹内昌治教授らの研究グループによるもので、3月9日付けの米国科学誌「Chem」に掲載された。

細胞膜中に存在するイオンチャネルは、細胞膜を挟んで細胞の中と外を行き来するイオンの流れ(膜電流)を制御することで、生体内でのエネルギー活動の本質を担う膜タンパク質である。一方で、非常に複雑なイオンチャネルの構造や機能を人工的に合成した化合物で再現し、細胞活動を制御しようとする研究が近年進んでいる。

今回、同研究グループは、二孔チャネル(TPC:Two-Pore Channel)と呼ばれる、2つの孔を用いて膜電流を制御するイオンチャネルに着目。同チャネルの機能の人工的な再現に向けて、ひとつの分子で2つの異なる電流値を示す新しい人工イオンチャネルの合成を試みた。

具体的には、金属有機多面体と呼ばれる内部に空間を有する分子のなかでも、立方八面体と呼ばれる、正三角形8つ、正方形6つからなる多面体に注目し、金属イオンとしてロジウムを用いて、約1nmのサイズをもつ立方八面体の金属有機多面体を合成した。

立方八面体の多面体構造を持つ金属有機多面体の分子構造。正三角形の入り口からながめた図(左)と正方形の入り口からながめた図(右) (出所:東京農工大学Webサイト)

同分子を、マイクロデバイス中に再現した人工細胞膜の中に埋め込み、単一分子レベルでのチャネル電流計測が16個並列にできるハイスループット計測により評価したところ、正三角形の入口、正方形の入り口をイオンが通るとそれぞれ別の電流値を示すことが明らかになった。

金属有機多面体分子を介した典型的なイオン電流値。正方形の入り口を通ると大きな電流値、正三角形の入り口を通ると小さな電流値を与える (出所:東京農工大学Webサイト)

現状では、この電流値の入れ替えはランダムに起こるが、今後は、電流の入れ替え、電流のON/OFFを外部からのインプットにより制御する分子を合成することで、イオンの流れを自在に制御できるようになると考えられるという。

TPCはさまざまな疾患や感染症に関与していることが明らかになりつつあるため、同研究グループは、今回の成果による人工的に合成した分子を実際の細胞膜に応用し、イオンの流れを自在に切り替えることで、感染症等のメカニズム解明へとつながることが期待されると説明している。