東北大学と農業・食品産業技術総合研究機構(以下、農研機構)は7日、野菜花き研究部門の柿崎智博主任研究員と北柴大泰准教授らの研究グループが、ダイコンの辛味や"たくあん"の匂い、黄変の原因となる物質「グルコラファサチン合成酵素遺伝子(GRS1)」を発見したことを発表した。同研究の詳細は、米国植物生物学会誌「Plant Physiology」に掲載された。

グルコラファサチンの生合成経路と分解経路

ダイコンの辛みやたくあん漬けの黄変、匂いは、グルコシノレート(カラシ油配糖体)の一種である「グルコラファサチン」の分解産物によりもたらされる。同物質が全く含まない突然変異体の存在は知られていたが、同成分を合成する鍵酵素は不明であった。2014年、東北大学大学院農学研究科の北柴大泰准教授らが、ダイコンのドラフトゲノム情報を発表したことから、グルコラファサチン合成酵素の同定に向けた研究が加速し、このたびグルコラファサチン合成酵素遺伝子が発見された。

研究成果として、突然変異体でグルコラファサチンが合成されないのは、ダイコンの第1連鎖群末端に存在するグルコラファサチン合成酵素遺伝子が壊れ、その機能を失ったことによるものであることが明らかとなった。正常な機能を持つ遺伝子(グルコラファサチンを生合成する遺伝子)が優性であることから、そのタイプの遺伝子を「GRS1」(GLUCORAPHASATIN SYNTHASE 1)と名付けたのに対し、同機能を失ったタイプ(劣性)を「grs1」と命名した。一般のダイコンは、今回発見されたGRS1遺伝子が働くことで、辛みやたくあん臭、黄変が生じる一方、GRS1の機能が欠損すると、辛み組成が変化し、臭いも黄変も生じない。

同研究部門は、原因遺伝子の塩基配列情報をもとに開発したDNAマーカーを利用し、種苗会社と共同で、グルコラファサチンが合成されず辛み成分の組成が変化したダイコン品種「悠白」と「サラホワイト」を育成した。両品種ともにグルコラファサチンを含まないことから、保存中にたくあん臭や黄変が生じないフレッシュ感のある新しいダイコン加工品の原料として使用できる。

GRS1遺伝子の構造と挿入変異の配列

今後は、grs1遺伝子を持ったさまざまダイコン品種の育成が予定されており、育成過程でgrs1遺伝子のDNA マーカー選抜を導入し、優れた加工適性を持つ品種の効率的な育成を目指すほか、植物種間でグルコシノレート合成に関わる遺伝子の配列を比較することで、植物種に特有なグルコシノレート組成が生じた原因が明らかになること、そしてダイコンの根の形や色など、ダイコンの育種に重要な遺伝子の同定や応用技術に貢献すると期待できるとしている。

DNA マーカーによる判別とグルコラファサチン含量