東京大学(東大)は3月1日、アルツハイマー病の症状と病変を再現する遺伝子改変マウスにホップ由来のビール苦味成分イソα酸を投与すると、脳におけるアミロイドβ(Aβ)の沈着と炎症が抑制され、認知機能も改善されることを確認したと発表した。
同成果は、キリンR&D本部健康技術研究所 阿野泰久氏、学習院大学大学院自然科学研究科生命科学専攻 高島明彦教授、東京大学大学院農学生命科学研究科獣医学専攻 中山裕之教授らの研究グループによるもので、1月13日付けの米国科学誌「Journal of Biological Chemistry」オンライン版に掲載された。
イソα酸は、ホップに含有されるα酸がビールの醸造工程で異性化し生じる成分。ビールの苦味成分の本体として知られ、インディアンペールエール(IPA)タイプなどのクラフトビールや苦味の強いビールに多く含まれている。
同研究グループは今回、イソα酸が、脳内で老廃物や異物の排除を担うミクログリアを抗炎症型へと誘導する作用と老廃物の除去を亢進する作用を併せ持っていることを見出した。さらに、アルツハイマー病の原因物質であるAβが加齢とともに脳内に沈着する遺伝子改変マウスに3カ月間イソα酸を含有する被験食を与え、認知機能、脳内Aβ量、炎症状態などを調べた。
この結果、イソα酸群では対照群と比べて、脳内の可溶性および不溶性Aβ1-42の量が有意に低下。また、活性化ミクログリアの浸潤が抑制され、炎症性サイトカインおよびケモカイン の産生量も有意に減少した一方で、シナプス量および神経栄養因子の発現量は有意に増加していた。加えて、Aβ沈着に伴い低下するミクログリアの老廃物の貪食機能と、新奇物体認識試験によるエピソード記憶もイソα酸群で有意に改善していたという。
同研究グループは今回の成果について、イソα酸がアルツハイマー病の予防に有効であることが示されたものであると説明している。