パナソニックは2月9日、有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサの同一画素内で、近赤外線域の感度を電気的に変えられる電子制御技術を開発し、可視光/近赤外線域での撮像をフレーム単位で切り替えることに成功したと発表した。同成果の詳細は、2017年2月5日~2月9日にかけて米国サンフランシスコにて開催された半導体の国際学会「ISSCC 2017(International Solid-State Circuits Conference 2017)」にて発表された。

同社は、独自の積層型構造を有する有機薄膜(積層型有機薄膜)を用いた有機CMOSイメージセンサを開発しているが、同センサは、光を電気信号に変換する機能を有機薄膜で、信号電荷の蓄積と読み出しを行う機能を下層の回路部で、それぞれ完全独立に行う構成を採用しているため、高感度、ワイドダイナミックレンジ、グローバルシャッタ機能などの特徴を有している。

今回の研究では、そうした特徴を残しつつ、撮像波長を可視光域から近赤外線域まで拡げつつ、近赤外線域の感度を電気的に制御する機能を付加することに成功したという。

具体的には、可視光域に感度を有する有機薄膜と、近赤外線域に感度を有する有機薄膜を積層させることで、可視光域から近赤外線域までの光を捉えられるイメージセンサを実現。課題であった画素サイズの小型化を実現するため、可視光域と近赤外線域に感度を有するそれぞれの有機薄膜に抵抗比を設けて直接積層し、そこに電圧を加えることで、波長感度の異なる各々の有機薄膜に加わる電圧を、抵抗比に応じて変化させる独自構造を採用。これにより、可視光域のみに感度を有する状態と、可視光域から近赤外線域に感度を有する状態とを一組の電極で電気的に切り替えることに成功したとする。

積層型有機薄膜を用いたCMOSイメージセンサの画素構成と、加える電圧により撮像波長域を切り替えた時の信号電荷をイメージした図

これにより、同一画素内でセンサの近赤外線域感度の制御が可能となるため、暗い場所と明るい場所を同時に撮影する場合でも赤外線カットフィルタを用いることなく撮像波長域を切り替えることができるようになるという。また、近赤外線域の感度を全画素で同時に制御することで、近赤外線域の撮像時には4倍の画素数を実現できるため、画素欠落のない近赤外線域の撮像が可能になるほか、物質を透過する近赤外線の特徴を利用することで、例えば、肉眼では見えない物質内部の情報を非破壊で高精細に取得することができるようになるという。

暗い場所と明るい場所があるシーンを撮像した事例。左が可視光域のみで撮像した画面、右が可視光域と近赤外線域で撮像した画面

さらに、イメージセンサの近赤外線域感度を高速に電子制御することで、フレームごとに感度波長域を切り換えた撮像が実現できるようになるため、可視光域撮像による目で見たままの画像と、近赤外線域撮像による人の目では捉えることのできない埋もれた画像情報を、1フレームの差で交互に取得することが可能になるとしている。

左が可視光域のみで撮像した画面、右が可視光域と近赤外線域で撮像した画面。近赤外線域撮像では水槽の醤油が透けて、奥にある瓶のラベルが見える

なお、同社では、今回の技術に関して、これまで可視光域と近赤外線域の撮像を切り替える際に用いていた、赤外線カットフィルタと、フィルタの挿抜を行う可動部が不要となるため、イメージセンサをモジュール化した際の小型化や堅牢性向上が可能となるほか、グローバルシャッタ機能を活用することで、マシンビジョンやITS監視など高速かつ高解像度な可視光/近赤外線域撮像が求められる分野への活用が期待されると説明している。