英サセックス大学をはじめとする国際研究チームは、実用的な大規模量子コンピュータの設計図を公開した。研究には、米Google、デンマークのオーフス大学、ドイツのジーゲン大学、日本からは理化学研究所も参加した。量子コンピュータ実現に向けた進展が期待される。研究論文は、Science系列のオープンアクセス誌「Science Advances」に掲載された。

イオントラップ型量子コンピュータのコア部分の試作品(出所:サセックス大学)

想定されているのはイオントラップ型と呼ばれるタイプの量子コンピュータであり、電磁場中に捕獲したイオンが相互に干渉し合う量子もつれ状態にして、これを量子計算に利用する。この方式は量子の重ね合わせ状態を保てる時間(コヒーレンス時間)が長く、堅牢で安定した量子計算ができると考えられることから、量子コンピュータの有力なアーキテクチャとして世界中で研究が進められている。

今回の研究で注目されるのは、量子コンピュータモジュール間での量子ビットの転送について、新しい方式を提案している点である。従来、イオントラップ型量子コンピュータでは、モジュールの駆動にはレーザー光を用いる方式が考えられてきた。しかし、この方式で実用的な量子コンピュータを作るには、極めて多数のレーザービームを同時に安定して制御する必要があり、技術的に困難とされていた。

この問題を解消するため、今回の研究では、電界によって生じるモジュール間でのイオンの移動をデータ転送に利用する方法が考案されている。レーザー光はドップラー冷却と呼ばれる冷却プロセスや、イオンの量子状態生成、データの読み込み、読み出しなどに使われるだけになり、レーザー駆動の量子ゲートを精密に配列する必要がなくなるため、より現実的な量子コンピュータが可能になると考えられる。

電界を利用したイオン移動技術では、光ファイバを用いた最先端の接続技術と比較して、10万倍程度高速なモジュール間接続が可能になるという。

モジュールを組み合わせることによって、さまざまな規模の量子コンピュータを自由に構築できるようになる。モジュールは、シリコン微細加工によって形成できるため、現在の技術レベルで実現可能。モジュールの量子計算には長波長の放射を用いた量子ゲート技術が利用される。

研究チームは今後、今回の設計図にもとづき、実際に動作する量子コンピュータのプロトタイプ作製に取り組んでいくという。