北海道大学(北大)は2月7日、メタノールの蒸気に選択的に応答して色と磁性を大きく変化させるニッケル錯体を開発したと発表した。

同成果は、北海道大学大学院 理学研究院化学部門 加藤昌子教授らの研究グループによるもので、1月23日付けの独科学誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載された。

蒸気で色と磁性を変化させる物質としては、鉄(II)イオンを組み込んだ鉄錯体がこれまでにいくつか報告されている。このような鉄錯体は、室温付近では蒸気によって常磁性と反磁性との切り替えができるものの、多くの場合は温度を下げることでより安定な反磁性へと変化してしまうことが知られていた。

同研究グループは今回、蒸気を検知して色と磁性を変化させる分子として、これまで用いられていなかったニッケル(II)イオンを組み込んだニッケル錯体に注目。ニッケル(II)イオンは、ニッケルの周りの構造が変わることで磁性が変わるという特徴的な性質を持っているため、溶剤の蒸気分子を使ってニッケルの周りの構造を変えることができれば、色と磁性が同時に変わるのではないかと考えた。

そして実験を進めた結果、メタノールの蒸気が高濃度で存在している環境に置くと、メタノールの分子がニッケル(II)イオンに結合し、色が濃紫色からオレンジ色に変化するニッケル錯体の合成に成功。オレンジ色のニッケル錯体は、エタノールやクロロホルムなどの蒸気にさらすと、メタノールの分子が外れて濃紫色に戻る。

また、この色の変化は磁性の変化とも同期しており、もともと幅広い温度で常磁性を示していたオレンジ色の状態からメタノールの分子を外したところ、常磁性は消えて、かわりに幅広い温度で反磁性を示すようになった。

同研究グループによると、将来はこのアプローチを磁気記録材料に使われている強磁性体へと適用することで、蒸気でデータを記録・消去する材料の開発も可能になるという。また、このような色と磁性の変化はメタノールによってのみ引き起こされることから、同じアルコールでありながら生体への毒性が異なるエタノールとメタノールを見分けるセンサとしても期待されるとしている。

今回のニッケル錯体がメタノールを吸う前後の写真と分子構造(出所:北海道大学Webサイト)