東北大学は1月13日、金属錯体からなる分子性格子材料へのイオンと電子の出入りを制御することで、磁性状態のON-OFFスイッチが可能な新たな電磁石「イオン制御型電磁石」を開発したと発表した。

同成果は、同大 金属材料研究所の谷口耕治 准教授、宮坂等 教授らによるもので、詳細は材料科学誌「Advanced Functional Materials」(オンライン版)に掲載された。

電磁石は、電気によって磁石の性質をON-OFFできる性質を活用したものだが、コイル構造をしているために体積が大きく、集積化が困難とされていた。そのため、近年、コイル構造ではなく、物質自身の性質を活かして電気的に磁石の性質を制御しようという試みが各所で進められてきた。

研究グループでは、これまでに金属錯体からなる分子性格子材料(金属-有機物骨格体)にイオン挿入を介した電子量の制御を行うと、人工的な磁石へと変換できることなどを報告してきた。この電磁石は、通電を止めても磁石の性質が保持される不揮発性を有しており、低消費電力化が可能だが、磁石の状態を保持するためには、物質へのイオンと電子を同時に挿入する必要があり、イオンの可逆的な脱挿入を容易に制御できる技術が求められていたという。

そこで研究グループでは今回、常磁性である水車型ルテニウム二核(II, II)金属錯体と非磁性かつ電気的中性のテトラシアノキノジメタン(TCNQ)誘導体からなる新たな中性層状化合物を開発。リチウムイオン電池の正極に開発した分子層状化合物を用いることで、リチウムイオンの脱挿入を介した分子格子への電子注入量制御ができるようになり、可逆的に状態を切り替えられることを確認したほか、リチウムイオン電池の充放電操作と連動して磁性状態を切り替えられることなどを確認したという。

なお、研究グループでは、今回の成果について、一度状態のスイッチングを行ってしまえば、通電し続けなくても磁石としての性質を発現させることが可能なことから、低消費電力の電磁石としての応用などが考えられると説明しているほか、不揮発性で磁性状態を保つことが出来ることから、電気的に制御可能な磁気メモリとしての利用なども考えられることから、今後は、室温において高速動作が可能な材料の開発を進めていく予定だとしている。

リチウムイオン電池の充放電を利用したイオン制御型電磁石の模式図。電池の放電時に磁石に変換され、充電時では常磁性状態へと変化する (出所:東北大学Webサイト)