京都大学(京大)は1月11日、親世代に低用量ストレスを与えることで獲得されるホルミシス効果(ストレス耐性の上昇や寿命の延長)が、数世代にわたって子孫へと受け継がれることを発見したと発表した。
同成果は、同大 生命科学研究科の西田栄介 教授、岸本沙耶 同博士課程学生、宇野雅晴 同特定研究員らによるもの。詳細は、英国の学術誌「Nature Communications」(オンライン版)に掲載された。
生物学ではこれまで、後天的に獲得した形質は遺伝しないと考えられていたが、近年の研究では、高カロリー食で肥満になった父ラットの子供ラットは、通常食で育てても糖尿病の症状を示すといった、親が生育した環境によって子供の表現型が変化を受ける可能性が示唆されるような事象が報告されるようになっていた。
そこで研究グループは今回、親から子へと受け継がれる生存優位性に着目しつつ、獲得形質の継承メカニズムの解明に挑んだという。具体的には、モデル生物である線虫C.elegansを用いて、親世代において成虫になるまでの発生過程で低容量のさまざまなストレスを与えて育てると種々のストレス耐性が上昇すること、さらにその耐性上昇はストレスを与えずに育てた子世代や孫世代にも受け継がれること、ならびにストレスをオスの親のみに与えた場合でも、子孫に効果があることを発見した。
さらに、こうした形質の継承メカニズムを解析したところ、生殖細胞のヒストン修飾因子と体細胞組織の転写因子とが組織間コミュニケーションをすることにより、親世代での獲得形質をエピジェネティック機構を介して次世代へ継承するというモデルが示されたという。
今回、発見した現象について研究グループでは、環境変化を経験した個体が子孫に対して適応力を授けるという、種の生存戦略の1つである可能性が考えらるとコメント。ストレス応答性のシグナル伝達経路は進化的によく保存されているため、線虫以外の生物においても重要な知見となると予想されるとしており、今後は、環境ストレスに応答してどのような遺伝子領域がエピジェネティックな制御を受けるのかについてゲノムワイドな解析を行うことで、より詳細な分子メカニズム解明を目指していきたいとしている。