扁桃体にある特定の脳細胞を不活性化させれば、アルコール依存症は治るかもしれない

アルコールはうまく付き合えば、人生を楽しむための"良薬"となるが、一度その付き合い方を間違えると、依存症という病におかされてしまうリスクもはらむ。アルコール依存症を放置しておけば、さまざまな疾患を招く可能性があるが、ある特定の脳細胞を治療すれば、依存症から脱出できるかもしれない。

海外のさまざまなニュースを紹介する「Livescience」にこのほど、「脳細胞とアルコール依存症」の関係を調べた研究を紹介するコラムが掲載された。最新の研究によると、少なくともラットにおいては、特定の脳細胞がアルコール依存症を引き起こしているとみられるため、その細胞を治療することで依存症から抜け出せる可能性があるという。

アルコール依存症になったラットを用いた試験では、扁桃体にある特定の脳細胞を不活性化させる化合物を注入することで、アルコール依存症の症状が見られなくなった。「ラットはアルコール依存症だったことを忘れているかのようです」と米国カリフォルニア州ラホヤにあるスクリップス・リサーチ・インスティチュートのオリビエ・ジョージ講師が語る。

従来の研究では、頻繁にアルコールを摂取すれば、これらの脳細胞が活発になることは示されていた。だが、その脳細胞の活発化が、アルコール過剰摂取の「原因」なのか「結果」なのかはわかっていなかった。今回の研究では、これらの脳細胞が活発になることが原因となって、アルコールを過剰に摂取するようになることが示唆されている。

今回の研究結果は、アルコール依存症に陥るのに必要な重大な神経生物学的メカニズムを特定している可能性もある。これらの脳細胞を不活性にすると、アルコール依存症の症状がなくなり、その影響は長期にわたって持続した。「これほど強い影響が数週間続くのは見たことがありません」とジョージ講師は語る。ラットには震えなどのアルコール禁断症状も見られなかった。

一方で、アルコール依存症にはなっていないが、過度の飲酒をするラットの同じ脳細胞を不活性にすると興味深い結果が得られた。ラットは飲酒量を減らしたが、その効果はたった一日だけしか確認できず、その後は飲酒量が元に戻ったとのこと。アルコール依存症にまだ陥っていないラットは、過度の飲酒を引き起こす脳内の「経路」がまだでき上がっていないことが、この現象の原因と考えられている。

これはラットでの試験結果であって、人間でも同じことが言えるかどうかに関しては、今後の研究が待たれる。ただ、今回の発見は、2007年に「insula」と呼ばれる脳の特定部分が傷ついた喫煙者を対象に行われた研究結果と似ている。これらの喫煙者は、「身体が吸いたいと思う衝動を忘れた」ために簡単に禁煙できたとされている。今回の研究で、アルコール依存症に関する同様の脳回路が発見されたのかもしれない。

※写真と本文は関係ありません

記事監修: 杉田米行(すぎたよねゆき)

米国ウィスコンシン大学マディソン校大学院歴史学研究科修了(Ph.D.)。現在は大阪大学大学院言語文化研究科教授として教鞭を執る。専門分野は国際関係と日米医療保険制度。