ザインエレクトロニクス(ザイン)は9月15日、東京大学(東大)と共同でノイズ耐性に優れた高速起動完全デジタル型クロック・データ・リカバリ(CDR)技術を開発したと発表した。

同成果は同社と東大大学院工学系研究科の浅田邦博 教授、名倉徹 准教授、飯塚哲也 准教授をはじめとする研究グループによるもので、9月12日からスイスで開催されている国際学会ESSCIRC(European Solid-State Circuits Conference)で発表された。

デジタル化とIoE (Internet of Everything)およびビッグデータ活用の普及により、デジタル機器が取り扱うデータ量は飛躍的に増大している。このため、データ伝送速度と消費電力がシステム構成上の重要な要素となり、デジタル機器の電力消費環境には制約があることから、可能な限りの削減が必要となっている。

同研究グループはこれまで、モバイル機器等アプリケーションの特徴であるバースト・モード(モバイル機器の動作パターンの断続的な状態)に対応して、待機時消費電力と復帰速度に優れた特性を持つ完全デジタル型CDR技術を開発している。

今回開発した高速起動完全デジタル型CDR技術は、起動後の位相同期回路(PLL)の動作を工夫する技術であり、これによりデジタル型CDR回路のノイズ耐性の向上に成功。レファレンス回路が不要、待機時からわずか4ビットの予備信号のみで高速特性での周波数追随(ロック)が可能、かつ小面積で実現、というこれまでの研究を通じて確立した特性を維持しながら、データ復調時の失敗の原因となるノイズの影響を解消することにより、定常状態の安定動作を可能とする新方式を確立するものとなった。

さらに、複合構成型デジタル可変遅延素子および位相検出・制御回路で構成される新規周波数追従機能を搭載したCDRとすることで、入力信号の立ち上がり情報の有無に対応したデジタル可変遅延素子選択と遅延時間の動的制御を行う方法(フラクショナル位相選択方法)を実現し、従来の完全デジタル型CDRを約20倍上回るノイズ耐性、広範な周波数レンジ、微細な周波数解像度を達成した。

今後、IoEの普及に伴い、従来のモバイル機器以上にノイズ環境に曝される各種センサーネットワーク用途や自動運転・ADAS(先進運転支援システム)関連などのセンサーデータ利用環境などの拡大が見込まれ、今回の成果はこうした用途を含めてバースト・モード時における高精度動作時の応用が想定され、低消費電力化、高速化、省スペース化、ノイズ耐性向上などが求められる広範な潜在市場において、今後の適用の可能性が期待される。

ノイズ耐性を改善した高速起動完全デジタル型CDRの回路および写真