東京医科歯科大学(TMDU)は、椎間板線維輪を構成するコラーゲン組織の形成に必須な遺伝子発見し、その分子メカニズムを解明したと発表した。

同成果はTMDU大学院医歯学総合研究科システム発生・再生医学分野の浅原弘嗣 教授、中道亮 特別研究生、伊藤義晃 助教らの研究グループと、岡山大学整形外科学講座、国立成育医療研究センター研究所、東海大学医学部、米国スクリプス研究所、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校との共同研究によるもの。8月16日(英国時間)の国際科学誌「Nature Communications」オンライン版で発表された。

脊椎椎間板ヘルニアをはじめとする椎間板の病気が引き起こす腰痛、下肢痛は日常生活の質を低下させ、治療には消炎鎮痛剤の内服やブロック注射など長期の通院が必要となる。また、手術では脊髄神経を圧迫している椎間板を除去することが一般的だが、同治療法では椎間板変性、あるいは変形性脊椎症への進行を予防できない。そのため、壊れた椎間板を修復する治療法の開発が望まれているが、まだ実現しておらず、特に椎間板の外壁をなす線維輪の発生・再生メカニズムは不明な点が多い。

浅原教授らはこれまでの研究で、腱を構成するI型コラーゲンや腱線維をつなぐプロテオグリカンの産生に必須な腱・靭帯特異的遺伝子「Mohawk(Mkx)」を発見。靭帯は椎間板線維輪と似た働きをし、主要な構成要素もI型コラーゲンで共通していることから、同教授らはMkxが椎間板に与える影響について研究を行ってきた。

今回の研究では、転写因子Mkxがマウスの椎間板の線維輪外輪やヒトの椎間板においても線維輪外輪に強く発現することを発見。Mkxノックアウトマウスを用いた解析では、ノックアウトマウスの椎間板線維輪外輪のコラーゲン細線維径が小さいことを確認した。また、野生型と比べてノックアウトマウスは加齢に伴い徐々に椎間板変性が進行し、力学的に脆弱な線維輪組織が形成されていることもわかった。

コラーゲン細線維の電子顕微鏡像。MKxノックアウトマウス(下)では、線維輪のコラーゲン細線維の径が小さい

さらに、Mkxの細胞分化における役割を調査したところ、マウス胚由来の間葉系幹細胞にMkxを導入した細胞は形態が紡錘形に変化し、種々の腱・靭帯関連遺伝子の発言の上昇が認められ、I型コラーゲンを生成するようになった。このことから、Mkxは間葉系幹細胞を、線維輪外輪組織を形成する能力をもった細胞へと誘導する力があることがわかった。

また、この細胞をマウス椎間板変性モデルの椎間板線維輪外輪内に移植すると、そこに豊富なI型コラーゲン線維を形成し、健常組織に近い物性を持つことを確認。これらの結果から、Mkxで誘導された細胞を用いることで傷んだ線維輪組織を修復できる可能性が示唆された。

Mkxは間葉系幹細胞を、I型コラーゲン線維を生成する細胞へと変化させる

同研究グループは今回の成果について「多くの患者が存在する椎間板ヘルニアや椎間板変性症、さらに進行した変形性脊椎症に対し、この結果を応用することで椎間板再生という新しい治療が開発されることが期待されます」とコメントしている。