日立製作所(日立)は6月21日、磁性体の性質を説明するために考案されたイジングモデルを用いた新型半導体コンピュータの実用化に向けた前処理アルゴリズムを開発したと発表した。

都市における交通渋滞の解消やグローバルサプライチェーンにおける物流コストの最小化など、複雑な社会課題を解決するためには、経路や手順などの組み合わせについて、さまざまな制約下で出来る限り良い解を求める技術が必要となる。同社は、社会インフラで生じるこの「組み合わせ最適化問題」をイジングモデルを用いて処理する新型半導体コンピュータの開発に取り組み、2015年2月に試作に成功している。

新型半導体コンピュータ上でイジングモデルを用いて実際の問題を解くためには、経路や手順など、問題を構成している要素と、要素同士がどう関係しているかを示す相互作用を新型半導体コンピュータ上に取り込む必要がある。しかし、要素間の相互作用が複雑であるため、半導体基板上の規則的な構造に当てはめることができないという課題がある。

今回開発したアルゴリズムは、複雑な相互作用を単純で規則的な構造に自動変換することができる。これにより、新型半導体コンピュータ上に複雑化した相互作用を効率的に取り込むことが可能となった。

日立は今後、北海道大学に開設した「日立北大ラボ」をはじめとするオープンイノベーションを通じて、新型半導体コンピュータの実用化に取り組み、複雑化する社会インフラに対応した大規模・高速な情報処理を可能とすることで「超スマート社会」の実現に貢献するとしている。

今回開発したアルゴリズムの動作イメージ。前処理アルゴリズムでは1つの要素が持つ相互作用の数に応じ、複数の要素に分割し相互作用の数を減らすことで単純な相互作用にする操作を繰り返す。この操作を用いることで、全ての要素が互いに接続されているような複雑な構造でも(図 (a))でも、自動的に格子状の構造に変換することが可能(図 (b))となる。今回開発したアルゴリズムは、格子状の構造に変換した後に、冗長な要素の削減と再配置を効率良く繰り返すことで、必要な要素数を徐々に少なくしていく(図 (c、d))。これにより、できる限り少ない要素数で、新型半導体コンピュータが処理可能な形状への変換を実現した。