東北大学(東北大)は5月16日、アモルファス一酸化シリコン(SiO)の構造解明に成功したと発表した。
同成果は、東北大 原子分子材料科学高等研究機構 平田秋彦准教授、陳明偉教授、物質・材料研究機構 小原真司主幹研究員、日産アークデバイス機能解析部 今井英人部長 研究グループ、科学技術振興機構および高輝度光科学研究センターらの研究グループによるもので、5月13日付の英国科学誌「Nature Communications」に掲載された。
SiOは、星間分子として宇宙に多量に存在することが知られている物質で、固化すると黒あるいは茶色のアモルファス固体となる。アモルファスSiOは、次世代電気自動車に搭載する高容量リチウムイオン二次電池の電極材料としても注目されている。その構造については、これまで下記のような3つの仮説が提案されてきているが、原子の並び方が乱れ、複雑に入り組んだナノスケール構造を持っていることから、その全貌の解明は極めて困難となっていた。
- アモルファスSiOが均一構造であるという説(Siの隣が常に2つのSiと2つのO)
- SiとSiO2の混合物であるという不均一説(Siの隣が4つのSiである構造と4つのOである構造の混合物)
- 不均一な混合物ではあるが、SiとSiO2以外の構造も含んでいるという説
今回、同研究グループは、「オングストロームビーム電子回折」により得た、電子顕微鏡像で識別可能なアモルファスSiO中の2種類のナノスケール領域と、その境界からの電子線強度をそれぞれ平均して得たプロファイルと、「放射光高エネルギーX線散乱」により得た定量性の高い広い領域からの平均構造の両方を満たすような不均一構造モデルを、スーパーコンピューターを用いた計算機シミュレーションによって構築した。
この結果得られた構造では、仮説3のようにSiやSiO2中に見られるもの(Siの隣に4つのSiおよびSiの隣に4つのO)に加え、それらとは異なる特徴的な原子の並び方(Siの隣に3つのSiと1つのO、2つのSiと2つのOおよび1つのSiと3つのOの3種類)が境界領域に形成されていた。さらに、エネルギー的な安定性を評価したところ、さまざまな原子の並び方が含まれているこの仮説3の不均一構造モデルは、原子が均一に分布した仮説1の均一モデルよりもはるかに安定であることがわかった。
以上の結果から、アモルファスSiOは、SiとSiO2のほかに3種類の構造が混ざった複雑な状態として安定に存在することが明らかになったといえる。
同手法は、ほかの不均一なアモルファス酸化物や酸化物ガラスにも応用できるほか、金属などの不均一アモルファス構造にも適用可能であるため、幅広い波及効果が期待される。また、電池動作の仕組みの解明にも繋がると期待されるため、同研究グループは、今後、電池が動作している状態での実験を試みる予定であるとしている。