肌がディスプレイになる? 皮膚に貼れる薄くて超柔軟な有機LED - 東大が開発

東京大学(東大)は4月16日、皮膚のような複雑な曲面に貼り付けることができる超柔軟で極薄の有機LEDを作製し、大気中で安定に動作させることに成功したと発表した。

東京大学大学院工学系研究科 染谷隆夫教授

同成果は、東京大学大学院工学系研究科 染谷隆夫教授、横田知之講師らの研究グループによるもので、4月15日付けの米国科学誌「Science Advances」オンライン速報版に掲載された。

染谷教授は2013年にも超薄型有機LEDを開発したと発表しているが、これは窒素環境下での研究結果であり、また、輝度や外部量子効率も十分なものであるとはいえなかった。

今回、同研究グループは、高性能な有機LEDを極薄の高分子フィルム上に作製し、水や酸素の透過率が低い保護膜を高分子基板上に形成することによって、くしゃくしゃに曲げられる超柔軟性を維持したまま、大気中で安定に動作させることに成功した。

基材には、パリレンと呼ばれる生体適合性に優れる厚さ1μmの高分子フィルムを使用。基材や保護膜を含むディスプレイ全体の厚みは3μmとなっている。最外部量子効率は、赤色が12.4%、緑色が13.9%、青色が6.3%であり、10Vの動作時に輝度10000cd/m2を実現している。染谷教授はこの数値について「普通のディスプレイに使われている強度がだいたい1000~1500cd/m2なので、有機LEDディスプレイを実現するには10000cd/m2というのは十分な強度。また外部量子効率も、現在商品化されている有機LEDディスプレイと同程度」と説明している。

超柔軟有機LEDのデバイス構造

従来の極薄型LEDとの比較

今回、このように極薄有機LEDの大気中での安定動作を実現する鍵となった技術は2つある。

ひとつめは、デバイスを極薄に維持したままで、水や酸素の透過率の低い保護膜を極薄の高分子基板上に形成する技術だ。具体的には、有機層として500nm厚のパリレン膜、無機層として200nm厚のSiONを積層化した5層の多層膜を成膜したことにより、保護膜の総厚みを2μm以下としながら、水分透過率を5×10-4g/m2・day、同時に酸素透過率を0.1cc/m2・dayまで低減した。大気中における輝度の半減期寿命は29時間となっている。

極薄高分子基板上の保護膜(封止膜)

ふたつめは、極薄高分子基材に損傷を与えずに、透明性電極の代表である酸化インジウムスズ(ITO)を成膜する技術。高分子基材は、熱によって簡単に収縮し、またプラズマのような高エネルギープロセスによって簡単に表面が荒らされてしまうため、平滑性に乏しい。そこで同研究グループは、ITOを成膜する前に、500nm厚のポリイミドをコーティングすることによって、表面の平坦性を3.6nmから0.3nmまで改善。極薄高分子基板に平坦なITO電極を作製することに成功した。

極薄高分子基板上のITO電極

同有機LEDは、超薄型であるため、人間の皮膚の表面のように複雑な形状をした自由曲面にもぴったりと貼り付けることができ、ディスプレイやインディケータとして使うことができる。同研究グループは例として、赤色のLEDで7セグメントのディスプレイを作製し、実際に人の手の甲に直接貼り付けて0から9までの数字を表示させる実験を行っている。

皮膚に貼り付けた7セグメント・ディスプレイ

さらに、1色もしくは2色の同有機LEDを使って、実効的な発光面積が約10cm2のインディケータを作製し、人の頬に貼り付けて明るさを変化させる実験も行った。なお、同有機LEDは曲率半径100μmまで曲げても特性が損なわれないという。

顔に貼りつけた青色のマークのインディケータと2色からのインディケータ(左)、およびくしゃくしゃに曲げた有機発光素子(右)

また、この折り曲げ特性を活かし、ゴムシートと貼り合わせて、伸縮自在な有機LEDを作製した。あらかじめ200%まで伸ばしたゴムシートと同有機LEDを貼り合わせた後、ゴムシートをもとの長さに戻すことによって、ゴムシートの表面に同有機LEDのしわの構造を意図的につくることによって、伸縮性を実現している。これについては、1000回繰り返して60%伸張させても、デバイスの特性が10%しか変化しないことを確認している。

伸縮性のある同有機LEDの繰り返し引っ張り試験の結果

これに加え今回の研究では、緑と赤の有機LEDおよび有機光検出器を集積化した30μm厚のパルスオキシメータ(超柔軟フォトニックスキン)を作製。これを指の先端に巻き付けることによって、脈拍や血中酸素濃度(測定範囲は90~99%)を安定的に計測することに成功している。

超柔軟フォトニックスキンで血中酸素濃度および脈拍を計測

今回の結果を受けて、染谷教授は「自分の心拍数に同期して明るさの変わるインディケータを頬につけて、自分のドキドキをほんの少し相手に伝えることによって、コミュニケーションのあり方が変わるかもしれない」とコメントしており、これ以外にもヘルスケア、医療、福祉、スポーツ、ファッションなどさまざまな方面への応用が想定されるとしている。

説明会でのデモンストレーション。腕に巻かれているのは電池。心拍数に同期して明るさが変わるようにすれば、新しいコミュニケーションツールとしての応用も考えられる



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