東京工業大学(東工大)は4月7日、鉄系超伝導体のひとつである鉄セレン化物「FeSe」のごく薄い膜を作製し、35K(ケルビン、0Kは-273℃)で超伝導転移させることに成功したと発表した。
同成果は、東工大 科学技術創成研究院 フロンティア材料研究所 平松秀典准教授、元素戦略研究センター 細野秀雄教授、大学院生 半沢幸太氏らの研究グループによるもので、3月28日付けの米科学誌「米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)」のオンライン速報版に掲載された。
現在、鉄系超伝導体の臨界温度(Tc)の最高値は55Kで、銅酸化物超伝導体の130Kの次に高い温度となっている。銅酸化物と鉄系超伝導体は、超伝導体のもととなる親物質(母相)が反強磁性体であり、伝導を担うキャリア(電子もしくは正孔)を添加することで、その反強磁性の磁気的な秩序が消失し、超伝導が発現するという共通点をもつ。一方、銅酸化物の母相はエネルギーギャップを持つモット絶縁体であるのに対し、鉄系物質の母相はギャップを持たない金属であるという違いがあり、これが銅酸化物と鉄系超伝導体の最高Tcの違いに関係していると考えられていた。
今回、同研究グループは、FeSeの厚さをナノメートルオーダーまで極端に薄くすると超伝導体ではなく、絶縁体のような挙動を示すことに着目。銅酸化物超伝導体のような高Tcを示す物質の絶縁体母相となりうると考え、外部から電界をかけて高濃度の電子を誘起することによって、絶縁体から金属のように電気がよく流れる状態、および超伝導状態の実現を試みた。具体的には、分子線エピタキシーにより高品質FeSe薄膜を作製し、電気二重層トランジスタ構造を利用してゲート電極から外部電界(ゲート電圧)を印加した。
この結果、ゲート電圧を印加しない場合は、温度が下がると電気抵抗が上昇する絶縁体に特徴的な様子が観察され、3.5ボルトまではその挙動にほとんど変化はなかった。しかし、4ボルトのゲート電圧を印加すると、キャリア濃度の増加を示唆する電気抵抗の低下とともに、8.6Kで電気抵抗の落ち込みが観察されはじめた。さらにゲート電圧を増加させることで、その抵抗の落ち込み開始温度が上昇。5ボルト印加時にゼロ抵抗、すなわち超伝導状態が観察され、最大の5.5ボルト印加時のTcは35Kとなった。これは、8Kで超伝導を示すバルクより4倍高い値となる。
同研究グループは今回の成果について、今後より高いTcの超伝導体探索の新しいルートを提供するものであると説明している。