厚生労働省は平成28年度から、いわゆる「ベビーシッター割引券」の企業負担を大企業では2/3から10%、中小企業では1/2から5%に引き下げ、割引額を2,200円に増額する見込み。1度はなくなりかけた国によるベビーシッター利用料の補助。国の支援はこれまでにどのような変遷を遂げてきたのか。国や事業の実施団体に話を聞いた。
ベビーシッター割引券「廃止」の衝撃
名称は変遷を遂げているが、国によるベビーシッター利用料の補助は平成6年から行われている。「ベビーシッター育児支援事業」として始まった支援制度は、こども未来財団を通じて展開。労働者が企業を通して申請をすれば、1回のベビーシッター利用に対して1,700円を国が全額補助するというもの。国によれば、年間10万回前後の利用があったという。
しかし、この補助事業は平成26年度いっぱいで廃止されることになる。きっかけは、「子ども・子育て支援新制度」の導入だ。これまで事業は、企業などから充当される「事業主拠出金」によってまかなわれていた。しかし同制度の導入により、この拠出金は放課後児童クラブ、病児保育、それに延長保育の3事業に使途が限定されることになったのだ。
当時の報道によれば、廃止による衝撃は大きかったようだ。「女性登用の流れに逆行する」「月に数万円の痛い出費が増える」といったような、利用者たちの声が目立つ。
補助継続も「企業負担有り」で利用回数落ち込む
これを受けてか厚生労働省は、一般会計を財源とした「ベビーシッター派遣事業」という支援制度を新たに導入することになった。これまでと同様に、1回の利用のうち1,700円を補助するというものだが、これまでと異なるのは、「国の全額補助」ではなく「企業の負担」が必要になったことだ。
これにより、福利厚生として補助事業を利用する企業が減ったとみられ、現在、事業を請け負っている全国保育サービス協会によれば、例年に比べると、利用回数が落ち込んでいるという。
ベビーシッター事業者が多く加盟する同協会の担当者は、「国の全額補助によるベビーシッター割引券の導入は、当時画期的なものだった」と語った。「割引券の影響で、ベビーシッターは"敷居が高い"というイメージが払拭され、利用者の裾野が広がった。需要はあったと認識している」と指摘。一方、企業負担が課されたことについては、「子育て施策の転換期であり仕方ないとは思うが、負担を増やして補助の形を変えるというやり方で利用回数の伸びる要素はなかった」と分析している。
補助額を利用料に近づけたい
このような状況を受けて、今回導入されたのが「企業主導型ベビーシッター利用者支援事業」だ。「子ども・子育て支援新制度」の導入で使途が限定されていた「事業主拠出金」を、ベビーシッター利用の補助にも使えるよう、法律を改正する見込みだという。これにより、全額国負担とはならないが、企業負担が、大企業では3分の2から10%、中小企業では2分の1から5%に引き下げられる予定となっている。国は福利厚生として同事業をとりいれる企業が増えることを期待していて、多くの子育て世帯が利用できる環境を整えていく意向だ。
さらに、これまで1回の利用に際して1,700円だった補助額も2,200円に増額。厚労省の担当者は「1回の利用料の平均額が2,500円程度なので、これに近づけたかった」と話した。加えて「さまざまな時間帯に働いている家庭のベビーシッター派遣サービスの利用を促し、仕事と子育ての両立支援による離職の防止、就労の継続、女性の活躍等を推進する」とその目的について説明している。
国による子育ての支援制度。今回の制度改正は評価すべき流れと言えるが、いずれにせよ、制度が変わるごとに影響を受けるのは子育て世帯の働き方と家計である。その場しのぎや一過性の事業に終始するのではなく、将来を見通し、子育て世帯の実態に沿った政策判断が求められている。