東北大学(東北大)は12月24日、鉄とタングステンを接合することによってその界面にディラック電子を発生させ、同電子に巨大な質量を与えることに成功したと発表した。

同成果は、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構 相馬清吾 准教授、高橋隆 教授、同理学研究科 佐藤宇史 准教授らの研究グループによるもので、12月23日付けの米科学誌「Physical Review Letters」オンライン速報版に掲載された。

次世代電子デバイス材料として注目を集めているグラフェンやトポロジカル絶縁体は、相対論的なディラック電子を持つ物質として知られている。ディラック電子とは、物質中においてあたかも質量がゼロの粒子のように振る舞う特殊な電子で、真空中で光速に近い速度で運動するニュートリノなどの粒子と同じような性質を示すことから、物質中の相対論的電子と呼ばれている。

今回、同研究グループは、分子エピタキシー法によって、タングステンの表面に数原子層の鉄超薄膜を成長し、外部光電効果を利用した角度分解光電子分光という手法を用いて、鉄とタングステンの界面から電子を直接引き出し、そのエネルギー状態を高精度で調べた。

この結果、鉄超薄膜を接合する前は質量がゼロだった結晶表面のディラック電子が、鉄超薄膜を接合することによって質量を獲得していることを明らかにした。また、その質量の大きさは、トポロジカル絶縁体に比べて遥かに(数倍程度)大きいことがわかった。さらに、鉄超薄膜の磁化の向きを制御することで、質量獲得の有無の切り替えができることを発見した。

角度分解光電子分光によって得られた鉄原子層超薄膜とタングステンの界面におけるディラック電子の質量獲得の模式図。ディラック電子は、物質中でディラック錐と呼ばれる電子の状態を形成している。今回、鉄のスピンの方向(面内/面直)によってディラック電子の質量を切り替えられることが明らかになった

同成果を新物質の設計や電子スピン状態の制御に利用することで、新しいディラック電子系物質の開発が進み、スピントロニクスデバイスや超高速処理を行う量子コンピュータの実現の可能性が進むことが期待されると同研究グループは説明している。