東京工業大学(東工大)は12月22日、ラン藻(シアノバクテリア)を利用して、アンモニアなどの産業的に有用な含窒素化合物を生産することに成功したと発表した。

同成果は、東京工業大学 資源化学研究所 久堀徹 教授と肥後明佳 特任助教の研究グループによるもので、12月18日付けの日本植物生理学会誌「Plant and Cell Physiology」電子版に掲載された。

ラン藻は光合成によって大気中の二酸化炭素から糖を生産するが、大気中の窒素を取り込み窒素化合物に変換する種もいる。このラン藻を活用して有用物質を生産するには、代謝系を目的の物質生産に適するように改変する必要があるが、これまでラン藻では遺伝子発現制御技術の開発があまり進んでいなかった。

今回の研究では、モデル生物として窒素固定型の糸状性ラン藻「アナベナ」を用いた。アナベナは数珠状に増殖するが、窒素源の乏しい環境で培養すると数珠状の細胞のところに「ヘテロシスト」と呼ばれる特殊な細胞が形成される。この細胞で、大気中の窒素をアンモニアに変換する窒素固定反応が行われる。固定されたアンモニアはその後、アミノ酸などに変換されて細胞内で利用される。

同研究グループは、さまざまな生物で遺伝子発現制御に用いられている転写抑制因子TetRを利用して、遺伝子発現制御システムを構築。TetRは、抗生物質であるテトラサイクリンでその機能を制御することができる。このシステムを特定の酵素の発現を抑制できるアンチセンスRNAの発現制御に利用し、微量のテトラサイクリンを用いて特定の酵素遺伝子の発現を制御できるシステムを構築した。

実際にこの方法でラン藻の生育に必須な窒素同化の鍵酵素であるグルタミン合成酵素遺伝子の発現を抑制したところ、窒素固定条件下でアンモニアなどの含窒素化合物が生産され、効率よく培地中に放出されることを確認した。

アナベナのヘテロシストと遺伝子発現制御システム。矢じりで示した丸い細胞がヘテロシスト。図中のアンチセンスRNAの発現は、TetR転写抑制因子により抑制されているが、テトラサイクリンを結合するとその抑制が解除される。この結果、発現するアンチセンスRNAが目的の酵素の発現を抑制することにより窒素固定経路のアミノ酸への流れが阻害され、余分な含窒素化合物が細胞外に排出される

この技術を発展させることで今後、地球環境に負荷をかけずにアンモニアなどの有用含窒素化合物を生産するシステムが確立できれば、ラン藻の応用範囲が大きく広がることになるという。