フォトン・アップコンバージョンと呼ばれるエネルギー創生技術の研究開発を進める九州大学などの研究グループが、これまで困難だった固体材料を用いて低いエネルギーを高いエネルギーに変換することに成功した。

自然界では、植物や藻類が太陽光を利用して効率の高い光合成を行っている。この際、利用される太陽光は、大部分が低エネルギー(可視~赤外光)領域で光の密度も低い。こうした利用しにくい低エネルギーの光を高エネルギーの光に人工的に変換し再利用可能にしようとする研究が、フォトン・アップコンバージョンだ。

九州大学大学院工学研究院分子システム科学センターの君塚信夫(きみづか のぶお)主幹教授・センター長、楊井伸浩(やない のぶひろ)助教らは、光のエネルギーを吸収したドナー(増感剤)の分子が励起三重項状態と呼ばれる電子状態になる現象に着目して、低いエネルギーから利用可能なエネルギーを作り出す研究に力を入れている。この6月には、ドナー分子のエネルギーを効率よく受け取るアクセプター(発光体)として、高密度に分子が配列した分子膜を作成することで、フォトン・アップコンバージョンの実用化に近づいたとする成果を発表している。ただし、これは溶媒中にドナーとアクセプターを溶解させた状態での成果だった。

日本時間4日、英科学誌「ネイチャーマテリアルズ」のオンライン速報版で公開された新たな研究成果は、ミラノ・ビコッカ大学のアンジェロ・モングッチ博士との共同研究による。金属錯体骨格(MOF)と呼ばれる固体の結晶性材料で約2%という効率のフォトン・アップコンバージョンを実現したところが新しい。これまで、固体状態ではドナー分子が凝縮してしまいアクセプター分子にうまくエネルギーを移せなかった。研究チームは、発光体としてナノメートル(100万分の1ミリメートル)サイズのMOE結晶を合成し、結晶表面をドナー分子で修飾する新しい方法を用いることで、固体材料では困難だった問題を解決した、という。

「今回開発したドナー修飾MOFナノ粒子はアクリル樹脂のような硬いプラスチック中に分散させて用いることが可能。汎用性の高いプラスチック材料を高機能化して再生エネルギー分野に応用する新たな道を開いた」と研究チームは言っている。

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