京都大学は6月12日、犬は飼い主に協力しない人物を嫌うことがわかったと発表した。
同成果は同大学文学研究科博士後期課程の千々岩眸氏、藤田和生 教授らの研究グループによるもので、Elsevier社の国際学術誌「Animal Behaviour」に掲載される予定。
犬はヒトの社会的信号に敏感な動物として知られ、例えば犬を騙そうとしてくる人物の指示にすぐに従わなくなる。こうした行動は、犬自身が利益を手にすることを背景にしているが、今回の研究では犬自身の利益に直接関係しない場面で、他者をどう評価するかを調べた。
実験では、家庭犬54頭を3群に分けて飼い主と実験者(応答者)がやり取りする演技を見せた。まず、援助条件群では飼い主が透明の箱のフタを外して、犬にとって価値の無いビニールテープを取り出そうするが成功せず、隣に座っている応答者に援助を求め、応答者の援助のもとビニールテープを取り出すことに成功し、取り出した後に犬に向かってビニールテープを嬉しそうに見せ、その後ビニールテープを箱に戻した。
援助拒否条件群では、応答者に援助を求めるところまでは同じだが、応答者が顔をそむけて拒否し、飼い主は箱からビニールテープを取り出すことに失敗した。
統制条件群では、飼い主が8-10秒間のフタ開け作業をした後、手を止めた直後、応答者は顔をそむけた。飼い主はその後作業を続けたが、フタ開けに成功しなかった。援助拒否条件との違いは、飼い主が応答者に援助を求めたかどうかという点だけということにる。
いずれの条件でも反対側に中立の人物が下を向いて座っており、演技終了後、応答者と中立者が同時におやつを差し出して犬がどちらの人物がおやつを取ろうとするかを観察した。
その結果、援助条件と統制条件では、人物選択はでたらめだったが、援助拒否条件では、応答者を避けて中立者を選ぶことが多かった。つまり、犬が飼い主に協力的でない人物を避けたということになる。ビニールテープは犬の興味を惹かないものであり、おやつはどちらの人物からももらえるので、この選択は犬自身の利益ではなく、第三者の感情的な評価をし、嫌な人物を避けるという行動を示したことになるという。
今回の研究では非協力的な人物に対する負の感情的評価を調べたが、今後は、困っている飼い主を見て、援助の要請が無いにも関わらず自ら援助の手を差し伸べる人物に対する犬の評価を調べることで、親切な人に対する正の感情評価について検討していくという。また、第三者的立場からの評価が、同種に対しても示されるかどうかを調べることで、こうした犬の能力が、ヒトとの共生によって作られた対象限定のものか、より一般的な犬の社会的能力なのかを明らかにできるとしている。