東北大学などの研究グループは6月5日、次世代の多機能電子素材として期待される「マルチフェロイック物質」において、新たな電子機能制御手法を実証し、その基礎原理を確立したと発表した。

同成果は、東北大学 大学院理学研究科の松原正和 准教授、青山学院大学 理工学部の望月維人 准教授(HSTさきがけ研究者兼任)、大阪大学 大学院基礎工学研究科の木村剛 教授らによるもの。詳細は米国科学雑誌「Science」に掲載された。

磁石の性質(磁性)を兼ね備えた強誘電体である「マルチフェロイック物質」は、磁場を変化させて誘電的な特性(電気分極)を制御することや、電圧を変化させて磁気的な特性を制御することができるため、次世代のエレクトロニクスデバイスへの応用に向けた取り組みが世界中で研究されている。

今回の研究では、-246℃以下で電子が持つ磁石の性質(スピン)が空間的に規則的に配列し、これに伴い強誘電分極が生じることが知られている「TbMnO3」を光学的手法を用いて、電気的かつ磁気的な応答をする特異な強誘電分極を可視化することに成功し、マルチフェロイック物質に特有な強誘電分極の振る舞いを発見したという。

これにより、電場による強誘電分極の制御過程が明らかとなり、電気的・磁気的な性質を備える強誘電分極が、電場により制御可能な通常の強誘電体としての機能を持っていることが確認されたとするほか、こうしたメカニズムは電気的エネルギーの利得よりも磁気的エネルギーの利得を稼ぐために起きる、マルチフェロイック物質に特有な現象であることも判明。これにより、同メカニズムが、強誘電性を磁場で制御する新しいメモリ・ロジック素子の基礎原理として用いることができるだけでなく、これを利用することで、電気的に異なる性質を持つ2種類の「ドメイン壁」(電気的に中性なドメイン壁と荷電したドメイン壁)を磁場により選択的に作り出すことが可能となるため、将来的にはドメイン壁を利用した新たなナノスケールのエレクトロニクスへの展開も考えられるという。

なお、研究グループでは今回の成果について、今後、同様の機構を持つ材料を研究するさいの重要な知見になるとしており、新たなナノエレクトロニクスデバイスなどへの応用が期待できるとコメントしている。

左の9枚の図は、マルチフェロイック物質であるTbMnO3結晶のc軸方向に電場を印加した際に強誘電ドメイン構造が変化する様子を可視化したもの。図中の白い(黒い)部分がc軸のプラス(マイナス)方向に電気分極が向いている領域に対応する。反対方向を向いた電気分極を持つドメインを隔てる強誘電ドメイン壁が電場に対して動くことにより、一方のドメインの拡大ともう一方のドメインの縮小を引き起こし、印加する電場の極性により電気分極の方向を自由に制御できる。右の図は、電場印加により得られた強誘電分極の履歴曲線。電場の反転で電気分極も反転し、強誘電体としての特徴を有している

上図は外場を加えていないときのマルチフェロイック物質であるTbMnO3結晶の強誘電ドメイン構造。電気分極はc軸方向(矢印の向き)を向いており、上向きと下向きの電気分極の領域を隔てるドメイン壁は電気的に中性になっている。下図は、TbMnO3結晶のb軸方向に10Tの磁場を印加した際の強誘電ドメイン構造。磁場の印加により電気分極はc軸方向からa軸方向(矢印の向き)に変化するが、ドメイン構造自体は変化しないため、左向き(右向き)と右向き(左向き)の電気分極の領域を隔てるドメイン壁はマイナス(プラス)の電荷を帯びることになる。この際、磁場により強誘電分極を意図した方向に90度回転することができ、その方向は自在に制御できる