東京大学(東大) 生産技術研究所の竹内昌治 教授と李源哲 特任助教の研究グループは、無機ナノマテリアルがグラフェン上に自発的に規則正しく整列する(自己組織化する)現象を応用して、単層グラフェンの帯状構造(グラフェンナノリボン)を独自の手法で形成することに成功したと発表した。同手法によるグラフェンナノリボンの作製は、シリコンに代わる半導体素材として注目されているグラフェンの利用可能性を大きく高めると期待される。
竹内教授らは、まず、常温の水溶液中でシアン化金がグラフェン上にナノサイズの繊維状構造(ナノワイヤ)を自己組織化することを発見した。従来、グラフェン上に有機物を自己組織化させることは可能だったが、無機物を自己組織化させるにはグラフェンの表面を加工するか、高温下で無機物を蒸発させて付着させるなどの特殊な方法を用いる必要があった。今回、竹内教授らは、金を含む室温の水溶液に表面を加工していない純粋なグラフェンを浸すことで、温和な条件下でグラフェン上にシアン化金が自発的に整列し、ナノワイヤが自己組織化されることを見出した。
作製されたナノワイヤは、グラフェンの結晶構造に沿って整列しており、これを観察することで間接的にグラフェンの結晶構造を知ることができる。ナノワイヤはグラフェンに比べて簡単に観察できるため、これを利用することでグラフェンの結晶構造解析にかかる手間と時間を減らすことができると期待される。
次に、このナノワイヤをもとにしてグラフェンをエッチングすることで、ナノリボンを作製することに成功した。ナノリボンは幅が約十nm、厚さが炭素原子1個分の極めて薄い帯状の構造体。グラフェンナノリボンは、半導体デバイスやバイオセンサなどとして利用できる可能性があり、次世代の半導体素材として期待されているグラフェンの応用可能性を大きく広げるものとして期待される。
同成果は、学術誌「Nature Nanotechnology」にて公開される。同研究は、カリフォルニア大学バークレー校、蔚山科学技術大学校、ハーバード大学、建国大学校、ローレンス・バークレー・ナショナル・ラボラトリーとの共同研究により行われた。なお、同研究は科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「竹内バイオ融合プロジェクト」の一環として行われた。