緑藻のクラミドモナスの光応答性イオンチャネル(チャネルロドプシン)改変型をマウスの筋芽細胞(筋肉のもととなる細胞)に組み込み、光の照射によって成熟、収縮する筋細胞を作ることに、東京医科歯科大学の浅野豪文(あさの としふみ)助教らが成功した。光による筋肉再生を原理的に実証したもので、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など筋力低下を伴う難病の新しい治療法の可能性に道を開いた。東北大学の八尾寛(やお ひろむ)教授、石塚徹(いしづか とおる)講師、大阪大学の森島圭祐(もりしま けいすけ)教授との共同研究で、2月9日付の英オンライン科学誌サイエンティフィックリポーツに発表した。
図. 光照射による筋細胞のトレーニング。(左)光照射前の未熟な細胞、(右)光照射後に収縮構造のサルコメアが構築された細胞(緑色がChRGR、マゼンタ色がサルコメア)。(提供:浅野豪文・東京医科歯科大学助教) |
細胞の分化・成熟過程が電気刺激などに依存する現象がさまざまな組織で報告されている。研究グループは、クラミドモナスのチャネルロドプシン1と2を融合した改変型のチャネルロドプシングリーンレシーバー(ChRGR)遺伝子をマウスの筋芽細胞に組み込んだ。この改変型チャネル遺伝子導入で、青緑色光に感受性を持つ筋細胞を作り、継続的に照射した。
青緑色光の照射を受けた細胞は、細胞内にある収縮の最小構成単位のサルコメア構造発達が促進された。また、このように成熟した筋細胞が、光刺激に応答して収縮することも確かめた。この効果はChRGRを発現する細胞のみで認められた。1秒に1回の周期的な細胞内カルシウム振動が最も効率的に成熟した筋細胞への分化を進めることも突き止めた。
この研究で開発された新技術は、光を照射するだけで特定の時間に、特定の細胞または細胞群を活性化させて細胞の成長・成熟を促進させる。その結果、光照射に応答して収縮する能力を獲得した骨格筋細胞が作られる。つまり、運動ニューロンの主要な機能を「オール光」で代替できる。また、マイクロマシンの駆動源となるバイオアクチュエータを実現するものとして期待される。
浅野豪文助教は「細胞を興奮させる光刺激が細胞の分化を促すだろうという仮説で実験したが、効果は予想以上だった。改変型チャネルロドプシンは野生型と比べて応答速度が速く、感受性も高い。刺激の繰り返しに伴って反応が減少する脱感作は小さいため、実用に適している」と話した。八尾寛教授も「今後、ヒトの細胞で効果を確かめる必要はあるが、ALSなどの筋力低下の難病を光照射で治療できる原理を示した点にこの研究の意義がある」と強調している。
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