群馬大学、京都大学、高輝度光科学研究センター(JASRI)は2月4日、米国ノースイースタン大学と共同で、大型放射光施設SPring-8の高輝度・高エネルギーの放射光X線を用いてリチウムイオン2次電池の正極材料に使われているマンガン酸リチウムにおけるリチウムイオン挿入の電池電極反応に寄与する電子軌道の正体を明らかにしたと発表した。

同成果は、群馬大の鈴木宏輔助教、郷直人氏、櫻井浩教授、ノースイースタン大学のB. Barbielini准教授、S. Kaprzyk教授、Yung Jui Wang博士、H. Hafiz氏、A. Bansil教授、京大の折笠有基助教、山本健太郎氏、内本喜晴教授、JASRIの伊藤真義副主幹研究員、櫻井吉晴副主席研究員らによるもの。詳細は、米国物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載される予定。

研究グループは、SPring-8のビームラインBL08Wの高輝度・高エネルギーX線を利用してコンプトン散乱測定によりリチウムイオン挿入におけるマンガン酸リチウムの電子運動量分布(コンプトンプロファイル)の変化を精密に測定し、第一原理計算と比較した。その結果、リチウムイオンがマンガン酸母材に入ると、酸素の2p電子が増加する一方、マンガン原子の価数はほとんど変化しないことを見出した。これは、マンガン酸リチウムの正極反応として一般的に考えられている"マンガン原子の価数が四価から三価へ変わる現象"は起きていないことを示している。今回の成果は、電極反応メカニズムの詳細を明らかにするだけでなく、リチウムイオン2次電池の電極材料設計に新たな知見を与えることが期待されるとコメントしている。

(左)実験から求めた差分コンプトンプロファイル。運動量が1.5原子単位以下の電子数が増大している。これは、リチウム挿入によって格子間(酸素2p軌道)の電子数が増加していることを意味している。(右)原子モデルのマンガン3d電子と酸素2p電子のコンプトンプロファイル。実験で得られた差分コンプトンプロファイルは、酸素2p電子のコンプトンプロファイルに近い形をしている