バイオマス利用に新しい可能性が生まれた。ポリエステル繊維やペットボトルとして身近なプラスチックのポリエチレンテレフタレート(PET樹脂)の原料であるテレフタル酸を、食用に適さない非食用バイオマス資源から簡便に生産する新しい方法を、群馬大学大学院理工学府の橘熊野(たちばな ゆや)助教と大学院生の木村沙織(きむら さおり)さん、粕谷健一(かすや けんいち)教授が開発した。2月4日付の英オンライン科学誌サイエンティックリポーツに発表した。
PET樹脂は容器包装材料や繊維材料として大量に利用されている。このPET樹脂はテレフタル酸を重合して作られる。テレフタル酸は化石資源の石油や天然ガスから生産されているのに対し、CO2の排出削減の観点から、原料をバイオマス資源へ転換する試みが増えている。しかし、大半は食用の穀物などのバイオマスから生産されるため、食料問題との競合が危惧され、非食用バイオマスから製造する方法の開発が待望されている。
研究グループは、木材や農業廃棄物を原料とする非食用の未利用バイオマスから工業的に生産されているフルフラールという化合物に着目した。トウモロコシの芯から作ったフルフラールを原料にテレフタル酸を6段階の簡便な化学プロセスで合成することに成功した。これは、フルフラールのみを原料として簡便な方法でテレフタル酸を合成した初めての例で、これまでに産業化が検討されていた方法よりも高い効率でテレフタル酸を合成できた。
国際標準規格でテレフタル酸に含まれるバイオマス炭素含有量を測定して、合成したテレフタル酸が100%バイオマス由来であることも証明した。フルフラールは19世紀末から、大量生産できるようになっているが、その用途が限られていた。この成果はフルフラールの用途拡大にもつながり、循環型社会構築に向けて大きな貢献が期待される。
橘熊野助教は「非食用バイオマスで大量に製造されるフラフールからPET樹脂の原料を合成できるわけがないという思い込みが強かった。発想を変えて、触媒や反応条件を工夫したら、比較的簡単にできた。工業的プロセスで合成すれば、収率50%も見込める。製造コストを下げて、ぜひ工業化を実現したい。仮に国内で生産されるPET樹脂すべてをこの方法で生産するとすれば、毎年100万トン近いCO2排出削減につながる」と話している